第117話 兄弟喧嘩です
「潰れろっ!」
エルス・リースターの持つ固有魔法『磁力』は、鉄分を含んだものを自在に動かすことができる強力な固有魔法だ。使い方にもよるが、ルドラ・オックスの持つ『風の刃』と同様に攻防一体の固有魔法で、俺が昔から何度も見てきた魔法だ。
エルスの背後にあったリースター邸宅の門を、強い上方向の力で破壊しながら引き抜いてこちらに向かって放り投げてきた。普通の人間ならば押し潰されただけで即死しそうな攻撃だが、今の俺には威嚇にもならない。
模倣した固有魔法の中から『火炎剣』を発動させ、鉄製の門を融解しながら切断する。俺がアサシンキマイラとグランドドラゴンを討伐したことは知っているようだが、固有魔法を使っている姿を改めて目にして、リースター家の執事もエルスも驚愕していた。
「……やめよう。兄弟でこんなことしても仕方がない」
「ふざけるなっ!」
前世の俺には兄弟なんていなかったし、リースター家での生活でエルスが弟になってから楽しかった時間なんて短かったかもしれない。それでも、俺は半分でも血の繋がった弟のことを敵として攻撃したくない。だが、エルスは俺のことを兄弟として見てくれていないのかもしれない。そう思えるぐらいに、俺に対して敵意を向けてきている。
「固有魔法が使えるようになったくらいで調子に乗るな!」
「……」
俺の炎で鉄を溶かされていることも理解できない訳がない。それでも退けないのはプライドなのか、それとも廃嫡されたはずの俺に負けることを恐れているのか。エルスは必至な顔で『磁力』を扱って周囲から大量の鉄分を浮遊させていく。
鉄剣や槍などが俺に向かって飛んでくるが、全てを『火炎剣』で融解させながら切断していく。
「くそっ!?」
「もうやめろ!」
「黙れっ!」
エルスは次々に飛ばすための鉄分を探しては投げつけていたが、俺によって全て融解されていく。何度も何度も鉄を投げつけたせいで、既に周囲に俺に向かって攻撃になりそうな鉄が消えてしまっていた。
「クソ、クソ、クソっ!」
「……終わりだ」
「俺の『磁力』を舐めるな!」
無理やりにでも鉄の何かを探して俺に向かって放とうとしていたが、固有魔法の構築式が杜撰になっていたので、そこを外側からついて『磁力』を解体した。
固有魔法を外から解体するというのは、相手の固有魔法の構築式を完全に把握したうえで隙を突ける状態でしか発動することができない技術だが、ルドラ・オックスに対して使ったことがある。そして、今の俺は当時とは違って『千里眼』による疑似的な精霊眼が存在する。焦って簡易的に組まれた固有魔法を解体することなど、訳ないことだ。
固有魔法を解体されると言う行為を初めて体感したのであろうエルスは、なにが起きているのか理解できないと言った表情を浮かべながら、俺のことを見つめていた。
「ま、まだだ!」
「もう、終わってるよ」
「がっ!?」
エルスが再び『磁力』を発動させようとした瞬間に、俺が『磁力』を発動させて砂鉄を集めて塊にして、エルスを背後から叩いた。背中に大きな衝撃を受けたエルスは、そのまま気を失って倒れた。
これが、俺とエルスが本気でやった最初で最後の兄弟喧嘩になるだろう。
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