第116話 再会です
「俺一人で行きますよ。身内の話ですし」
「……大丈夫なのかい?」
「問題ないです」
潜入メンバーのリーダーであるスイッチさんに、無理を言っている自覚はある。それでも、この話は俺が自分だけで片付けたい。エルスのことを殺しに行く訳でもないし、リースター子爵家を潰しに行く訳でもない。ただ、元家族として話をしに行くだけだ。
「わかった。君の意思を尊重しよう」
「ありがとうございます」
「気を付けてくださいね」
「わかってます」
リリアナ殿下には少し心配そうな顔をされてしまったが、俺は問題ないと告げる。
向こうが俺のことをどう思っているかはしらないが、俺は別に戦闘しに行く訳でもないので気にしていない。まぁ、リリアナ殿下が俺のことを心配するのはいつものことになってきたので、あまり大袈裟に否定する必要もないだろう。
アーノルドが住んでいる隠れ家から出て、俺はリースター邸宅を目指す。
マルフォスの街は中心にリースター邸宅があり、そこから四方へと伸びる大通りがある。西へ伸びる道は隣の辺境伯領へ、東に伸びる道は王都ロンディーナへと向かう街道と繋がっていて、後の二つはマルフォス内で完結している。
中心に建っているリースター邸宅を見上げながら、半年前のことを思い出す。雨の中、父であるレント・リースターの固有魔法『衝撃』を身体に受けて、半死の状態で放り出されたあの日のことを。
門の前でぼーっと邸宅を見上げていたら、タイミングよく扉を開けて人が出てきた。
「……扉を叩く前に出てきたな。エルス」
「お前は……ライトっ!?」
幽霊を見るような顔で俺を見ているエルスに、笑いが堪え切れなかった。直後、門を開けてエルスが飛び出してきて俺の胸ぐら掴んだ。
「お前っ!? 帝国に寝返った人間が、どの面下げて戻ってきた!」
「……言葉遣いが荒くなったな。色々あったのか?」
「黙れっ!」
どうやら、この世の中で領主代行はストレスにしかならないようだ。
俺の言葉が挑発だと思ったのか、エルスはすぐに拳を振り上げて殴ろうとしたが、後ろからやってきた執事がそれを息を切らせながら止めた。
「邪魔をするなっ! こいつを、殴ってやらなきゃ気が済まない!」
「落ち着いてくださいエルス様!」
「……話ぐらいは聞いてやれるぞ。廃嫡された人間でもな」
エルスの言葉から、俺が帝国軍にいることはどうやら知っているらしいことを把握した。
ただの推測だが、俺が帝国軍の前線で戦っているという事実が国王に知られたことで、リースター子爵家は取り潰されそうになっている。当主であるはずのレント・リースターがマルフォスにいない理由は、国王に言い訳をしに行っているから。恐らくこんなところだろう。そうでなければ、俺の顔を見ただけでエルスが殴りかかろうとはしない。
「ふざけるな……お前のせいでリースター家は……殺してやる!」
「結局、そうなるのか……」
戦争中の逆恨みみたいなものとはいえ、顔を合わせた瞬間に殺し合いになるのは予想していなかったとは言わない。10年近く共に過ごした弟と、殺し合いをしなければならないという現実には辟易するが、俺も殺される訳にはいかない。
魔力を解放したエルスの周囲にあった物体が、重力に逆らってふわりと浮き始める。
これは、俺が子供の頃から何度も見たことのあるエルスの固有魔法『磁力』だ。
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