第115話 休憩します
「へぇ……アンタもちゃんと貴族だった訳ね」
アーノルドの元へと潜入メンバーを全員連れてきたところ、キーニーが開幕で失礼なことを言っていた。いつも通りとはいえ、その憎まれ口は何とかした方がいいと思うんだが。
「はじめまして執事アーノルドさん。私はリリアナ・ローゼリア、ライト君の婚約者です」
「……すいません。リリアナ殿下の言葉は冗談ですので聞き流してください」
リリアナ殿下はアーノルドに向かって俺の婚約者とか言ってるし、それに対して申し訳なさそうに嘘であると謝っているアガルマ先輩がかわいそうである。
「森の中でずーっと待機、みたいなことにならなくて僕は安心したよ」
「アーノルドさん、食事まで頂いてありがとうございます」
スケールさんは室内という環境にリラックスした様子を見せ、スイッチさんは全員分の昼食を貰ったことに礼を言っていた。
目指すべき場所が王都であるため、このリースター子爵領であるマルフォスにいつまでも滞在する訳にはいかないが、休めるときに休める場所があるというのはいいことだ。本音は、無駄に豪華なのだからリースター邸宅でも奪って休憩所にしたいぐらいなのだが。
「……私も、これで帝国の間者という訳ですね」
温かいスープを全員分用意しながら微笑むアーノルドは、言葉とは裏腹にとても嬉しそうな顔をしていた。自惚れでなければ、俺に仲間ができたことに喜んでくれているのだと思う。アーノルドは既にリースター家の執事を引退しているが、俺のことをずっと気にかけてくれる唯一の身内みたいなものだ。
「それで、皆様はどこまで?」
「当然、ロンディーナだ」
「……今の王都ロンディーナは魔都ですよ?」
「それでも行くさ。俺は帝国の人間だからな」
「そうですか……」
アーノルドは純粋に俺の身の安全のことを心配してくれている。恐らく、アーノルドの言う通りリードラシュ王国の王都ロンディーナは既に魔都になっているのだろう。もしかしたら、住んでいる人間も外に出られないようになっていてもおかしくない。しかし、俺は帝国の偵察部隊としてロンディーナに乗り込むんだ。その程度では怯んでいられない。
「坊ちゃま、今のリースター邸宅にはレント・リースター様はおりません」
「……何故?」
あの男は強力な固有魔法を持っているが、戦争の前線に出るような人間ではないし、戦争中だからといって王都に籠って指揮を執るような人間でもない。レント・リースターは本質的に対応者でしかないはずだ。
「何故かまではわかりません。しかし、現嫡子であるエルス・リースター様が今はこの子爵領を取り仕切っておりまして……」
「成程な。だからこんな活気がない街になる訳だ」
ただの嫌味だ。
実際、国王が乱心せずに戦争中ではなかったら、エルスの統治でも問題は起きなかっただろうが、今の状況下ではどんな賢い領主がいてもただの木偶人形になるのが精々。なんだかんだと言っても、エルスは俺より頭もいいはずだ。
「取り敢えず、会ってみるよ。エルスに」
「よ、よろしいのですか?」
自分を廃嫡した時に散々なことをした相手だろうと、言いたげな顔をアーノルドはしているが、何度も言うが俺にとってはもう全て過去の出来事だ。
それに、半分しか血は繋がっていないし追放された時にあれだけの仕打ちをされたと言えども、相手は10年程度共に過ごした弟だ。全く楽しくなかった訳ではないし、憎み切れるものではない。
向こうが俺のことをどう思っているかは、別だけどな。
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