第114話 話を聞きます
「こちらです」
マルフォスの街中で偶然アーノルドに出会った俺は、何を話すべきか迷っている中で先に切り出したのはアーノルドの方だった。
俺が何故、王国リースター子爵領に帰ってきているのかも聞かずにただアーノルドは俺を家に案内してくれた。俺が廃嫡された時に治療してもらった時の家とは違う場所にある、まるで隠れ家のような場所に案内された。
「ここは?」
「……今の王国は、なにかと物騒ですからね」
俺が顔を隠すようなフードを被っていることを配慮してくれたのだろうか。アーノルドはやはりの俺のことをよく見ている。しかし、王国の人間であるアーノルドにすらも物騒と言われてしまう今の王国は、やはり異常なのだろう。
「物の価値はどんどん高くなりますし、税金は締め付けるように上がって行きます。王都から聞こえてくる帝国との戦線も快勝という報告ばかりで……」
前世で言う所の「大本営発表」みたいなものだろう。どんな国だって、自分たちがボロボロに負けているので大変なんですと、国民に泣きつくようなことはしないだろう。
帝国と王国の戦線で戦っていた俺からすると微妙な反応になってしまうんだが、王国に住んでいるだけのアーノルドだって異常さには気が付いている。
「それで、坊ちゃまはどうやってリースター子爵領に入ってこられたのですか?」
「……真正面から、カーナリアス要塞を超えてきた」
「そう、ですか」
真正面からカーナリアス要塞を超えてきたという言葉だけで、アーノルドは王国軍が奪取したと言われていた要塞すらも、帝国によって取り返されたことを察したのだ。そして、恐らく俺が帝国軍に所属していることも。
「坊ちゃまは、固有魔法を使えるようになりました?」
「……おかげでな」
俺とぶつかった時に手を擦りむいていたのに気が付いていたので、アーノルドの手を取って『自己治癒促進』を発動させる。
自分の固有魔法を模倣されたことに、アーノルドは目を見開いて手を何度も閉じたり開いたりしていた。自分の手と俺の顔を行ったり来たりしていた視線が、不意に下に落ちて、アーノルドは肩を震わせながら涙を流し始めた。
「メリスナ様は正しかったのですね?」
「そうだな。母は……お母様は正しかったよ」
廃嫡されたことで、以前よりも少し攻撃的な性格になった自覚はあるが、母親のことを恨んではいないし、父であるレント・リースターのことだって同様に復讐したいとは思っていない。ただ、もう過去の出来事なんだ。
俺の中で、王国リースター子爵家の嫡子として生きていた時間は大切なものだが、それはもう前世の記憶と同じように過去の出来事になっている。どれだけ前世に戻りたいと思ったとしても俺はもう元の世界には戻れない様に、王国の子爵であるリースター家にはもう戻れないのだ。過ぎてしまったことをいつまでもグチグチ言い続けるつもりもない。
もっとも、こんな考え方ができるのは俺が『模倣』という強力な固有魔法を手に入れて、信頼できる仲間を得ることができたからだろうが。
俺は、帝国にやってきたことで生き返ったんだ。固有魔法を発現させ、人と関わっていくうちに俺はライト・リースターという人間を手に入れた。
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