第113話 想像以上です
「……酷い」
準備を終えた潜入メンバーがカーナリアス要塞から出発してすぐのこと。カーナリアス要塞を挟んだ王国の辺境伯領である土地を見て、思わずといった様子でスケールさんの口から言葉が漏れる。
俺が生まれ育ったリースター子爵領の隣ということもあり、昔の姿をそれなりに覚えているものだが、もはや見る影もない。元々、カーナリアス要塞をいつまでも突破できない無能な辺境伯であると、王国内で罵られ続けていた貴族ではあったのだが、この土地を治めていた辺境伯はそもそも帝国と敵対する必要はないと唱えていた。恐らく今回の戦争にも反対しただろうが、結果として辺境伯領はモンスターによって荒らされ放題で、まともに人も住めないような状況になってしまっている。
「先を急ぎましょう」
「……異様。その一言でしか表せられない不気味さを感じます」
なるべく感情を押し殺した声を心掛けて全員に先を促したら、リリアナ殿下が俺の手を握りながら感想を述べた。
リリアナ殿下に手を握られたことで少し冷静さが戻ってきた。
今、俺は王国の現状に対してどれだけの怒りを覚えようが関係のない話だ。重要なのは、王国がこうなってしまった原因の方。キーニーやスケールさんだってそのためにこの場所にいるんだ。
昔から知っている場所が、見る影もなくなってしまっていたから少し動揺していたのかもしれない。
すぐに動き出した俺たちは、道中の幾つも滅びてしまった村の跡などを見つけながらも、王都にどんどんと近づいていった。
そこら辺を闊歩しているモンスターを討伐しながら、辺境伯領を抜けてリースター子爵領へと入り、川を超えた当たりでリースター子爵の邸宅が存在する街「マルフォス」へとやってきた。
俺が数ヶ月前に追い出されるようにして飛び出した街。国王に絶対の忠誠を誓うレント・リースターの治めるリースター子爵領地。
帝国の生活に慣れてしまっていたが、やはり15年間も生きてきた空気というのは考えさせられるものがある。しかし、やはりこのリースター子爵領も以前に比べて活気がなかった。辺境伯領のようにモンスターが平然と闊歩していたり、人が住めないような場所になっている訳ではないところを見るに、やはりリースター子爵家は帝国との戦争に反対しなかったのだろう。
「ここがライト君の故郷……生まれ育った地ですか」
『陰気臭いわね』
「それは、多分今だけだと思うぞ」
リリアナ殿下が目を細めながらマルフォスを見つめている横で、シアンがとんでもないことを言ってくれたが、流石にそれは戦争をしている今だけの雰囲気だと思う。
「スイッチさん、リースター子爵領からは真っ直ぐ王都に抜けられる街道がありますけど、馬車なんか使いますか?」
「……そうだね。戦争に賛成した子爵領もこんな状況だと、どんなモンスターに出くわすかもわからないから、自分の足で行く方が確実だと思うな」
「確かに、そうですね」
幼いころ、馬車で簡単に王都まで行けた記憶が蘇ってきたが、今は街道にどんなモンスターが現れるかわかったものではない。
「街に詳しい俺が色々と偵察してきましょうか?」
「危険ではないか?」
「腹も減ってくるし、いいんじゃない?」
「俺より飯優先なのね」
「違うわよ!」
この人数で街の中をぞろぞろと歩いていたら、流石に怪しまれてしまうと思うので、街の形に詳しい俺が全員分の飯を確保するついでにマルフォスへと偵察することになった。
幼いころ駆け回った街の大通りも、今は下を向きながら歩いている人が多い。一番奥に見えるリースター子爵邸宅だけは相変わらず立派な姿をしていたが。
「おっと、すいません」
「ぼ、坊ちゃま?」
「……アーノルド?」
街中をぶらぶらと歩きながら聞き込みついでに食べるものを買おうかと思ったところで、街の住人とぶつかってしまって反射的に謝った。しかし、返ってきた声と呼び方に反応して視線を上げると、そこには驚愕に染まった執事のアーノルドの顔があった。
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