第112話 潜入開始です
「で、殿下が向かわれるなど危険です!」
「ライト君が潜入するのに、こんな所で待っていられません」
「いや、リリアナ殿下はグランゼルにお戻りになれば……」
「嫌です」
やはりこの皇女、自由過ぎる。今は戦争中なのだから、もう少し自重して欲しいものだが、このリリアナ殿下という女性にはそんな気持ちは全く無いだろう。
ただ、俺はリリアナ殿下が潜入に付いてくることにはあまり反対ではない。というのも、彼女の持つ『停止』という魔法は、汎用性も高く強力な魔法である。模倣している俺も使えるが、同時に3つまでしか止めることができないという特性がある。絶対に付いて来て欲しいと言うことではないのだが、ついて来てくれると楽というのはある。
単純に、精霊眼という便利な索敵能力を持っているからというのもある。
「……私も行きます。こうなってはリリアナ殿下は譲られないでしょう」
アガルマ先輩がバーンズ侯爵に助け舟を出したように見えて、その実リリアナ殿下に助け舟を出している。侯爵としても、これ以上グダグダと潜入メンバーを決めることで時間は使いたくない筈だ。
「……わかりました。リュドマクエル男爵がいればある程度は安心できます」
「お父様には内緒でお願いしますね?」
「それは無理です」
当然だろう。ただでさえ溺愛されているなんて言われているのに、敵である王国の内部に潜入させたけど黙っていましたー、なんて即座に首が飛んでもおかしくない話だ。リリアナ殿下からわがままのように言っているから、バーンズ侯爵も苦言程度で済むだろうが。
「ライト、君は王国の子爵家出身だったね。案内できるかい?」
「魔改造されていない王都とリースター領程度なら」
「充分だよ」
帝国が信頼している密偵すらも帰ってこれない王都の中へ潜入する。その道案内に、俺の朧げな記憶でいいのだろうかと思うが、まぁ『千里眼』なんか使えばなんとかなるか。
「リリアナ殿下……危険な真似だけはしないでくださいね」
「……わかっています。貴方の足を引っ張るつもりはないですよ」
そういう話ではないんだが。
これは王国と帝国の戦争という形なので、帝国皇女という立場を持っているリリアナ殿下が向かうことは、本当ならば反対するべきなんだろうが、やはり俺はそれよりも頼もしさが勝ってしまう。
それに、俺が覚悟を決めてリリアナ殿下を守ればいい。俺の為について来てくれる人を守る為ならば、その程度は厭わない。
「よし……なら、なるべく早く王都まで向かわないといけないね」
「王都以外が荒廃していると言うのならば、王都までは早く行けそうですね」
「はぁ……アタシまで王国に行くなんて……」
「仕方ないよ。上位等級冒険者なんだからね」
キーニーの愚痴をスケールさんが苦笑いしながら宥めていた。
戦争が始まった時はどうしようかと思ったが、半年前に追放されるように出てきた王国領土に帰ることになるとは思っていなかった。だが、これもまた運命とでも呼べるものなのかもしれない。
追放されたことに関しては、別に恨んでいる訳でもない。固有魔法が使えるようになったからこその言葉かもしれないが、王国だろうと帝国だろうと実力主義なことは変わりない。その時の俺には力が無かった。今の俺には力がある。その程度の認識だ。
なにがどうなろうが、俺はもう帝国の人間だ。帝国の勝利の為に、王都まで謎解明に向かうとしよう。
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