第111話 潜入します
王国兵の捕虜から得た情報は、聞いていた帝国兵たちに大きな動揺を広げていた。
国王オーウェルの乱心により、多くの家臣が処刑されたこと。
戦争に反対した貴族たちも力を奪われ、半分程度が処刑されたこと。
貴族領地からの税金を無理やり上げ、搾り取るようにして得た金は王都を豪華にすることしか使っていないこと。
そのせいで、多くの村が飢餓で滅亡したこと。
その責任を帝国に擦り付けることで戦争を始めたこと。
何処からか持ってきた強力なモンスターを従え、戦争の道具に利用していること。
軍の士気は最低で、逃げ出している者も多いこと。
聞き出した全ての情報が、国としての形を保っていないと断言できるほど酷い物だった。ただ、国王オーウェルは20年程度前から即位しているが、そんな無能になったのはここ数年の話になる。やはり、誰かが裏からオーウェルを操っているとしか思えない。
俺が廃嫡されて、王国から追放された時はそこまで酷いことにはなっていなかったはずだ。つまり、オーウェルの乱心が行われたのは、半年以内の可能性が高い。乱心が裏で秘密裏に行われていたとしても、飢餓で村が滅亡したなんて話は聞いたことがない。もしくは……リースター子爵家が国王側に付いているから聞いたことがないのか。
「……これは異常事態であると言える」
重たくなってしまった口を開いたバーンズ侯爵の言葉に、全員が頷いた。
戦争をしている相手が、王国だと思っていた。しかし、王国はもはや滅びを待つだけの存在であり、誰を相手にしているのかもわからない状態だ。
「皇帝には既に遣いを送っているが、その前にこちらから王都に少数精鋭で人員を潜入させたい」
王国のこのあまりにも異常な事態に気が付けなかった理由は、全て帝国が送った密偵が全て音信不通になっているせいだ。今の王国には必ずなにかが潜んでいる。バーンズ侯爵は、その存在の尻尾を掴んでおきたいと考えているのだろう。
「少数精鋭の潜入ならばいざという時、撤退の判断もできる。実力者を送り込みたいと思う」
王国の中枢は、敵の本拠地とかそういう話ではなく、帝国の密偵が一人も帰ってこない魔境なのだ。実力者でなければ情報を持ち帰ることすらもできないかもしれない。
「私の信頼する騎士であるスイッチに人員は任せたい」
「……キーニー、スケール、ライト、君たちについて来てもらいたい」
スイッチさんが人員を決めると言った瞬間に、俺たち3人が選ばれることは理解していた。グランドドラゴンとの戦いも評価してもらえたみたいだし。自惚れではないが、俺の固有魔法ならばあらゆる状況に対応できるだけの力があるので、妥当ではあると思う。
「俺は子爵家の嫡子としてカーナリアス要塞の防衛強化として来ているので、無理だな」
ザリード先輩はカーナリアス要塞に残るので潜入することはできない。そうなると、俺たち4人で潜入することになる。
「あら、面白そうな話をしていますね。私もついて行っても構いませんか?」
「ん……んんっ!?」
俺の隣から聞こえてきた綺麗な声に適当に頷いたバーンズ侯爵は、いつの間にか現れていた黒髪を揺らすその女性の顔を見て目を見開いた。
「り、リリアナ殿下!? 何故ここに!?」
「……すみませんバーンズ侯爵」
にっこりと笑顔を浮かべた状態で、バーンズ侯爵を見つめるリリアナ殿下の背後から、本当に申し訳なさそうな顔をしたリュドマクエル男爵当主……つまり、アガルマ先輩がやってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます