幕間 レント・リースター
「レント・リースター、お前はとんでもない無能だな」
「な、何故なのですか?」
リードラシュ王国の玉座の間で、国王オーウェル・ヴァン・ソレイユ・リーダリラからその言葉を受けて、レント・リースターは動揺した顔を見せた。自らの絶対と定めている国王オーウェルに、突如無能の烙印を押されたことはレントにとって、全く想定外のことだった。
現在、ローズ帝国との戦争状態にあるリードラシュ王国で、本人も武力を持ちながら大きい土地を持っているリースター子爵家は、本来ならば国王から信を置かれるような立場にいるはずなのに、向けられる視線は嘲りを含んだもの。
「我がリードラシュ王国軍がモンスターを率いてローズ帝国に侵攻したことは知っているな?」
「も、もちろんでございます」
レントは王国軍がどうやってモンスターを支配しているのかも全く知らないが、危険なモンスターであるアサシンキマイラすらをも支配していることは知っていた。普通の魔法師では全く歯も立たないような力を持っているアサシンキマイラがいれば、帝国といえども壊滅的な被害を受ける。レントはそう思っていた。
「アサシンキマイラも、保険として向かわせていたグランドドラゴンも討たれた。帝国に侵攻した王国軍は壊滅状態だ」
「はっ!?」
アサシンキマイラだけならまだしも、グランドドラゴンも討たれてしまったと言われて、レントは表情を強張らせた。アサシンキマイラですらも、レントが単独で戦って勝てる相手ではないと言うのに、もはや等級で表すことすらできない龍種の一体であるグランドドラゴンすらも殺された。帝国軍の底知れぬ力に、レントは恐怖を抱いた。しかし、オーウェルが怒りを露わにしている理由は、軍勢が敗北したことが原因ではない。
「アサシンキマイラも、グランドドラゴンも……討伐したのは貴様が廃嫡して追放したライト・リースターだと言うぞ?」
「そ、そんなはずはありません! やつは固有魔法も持っていない無能者です!」
「戯けが! 今はそんな言い訳など聞く耳もたん!」
「ひぃっ!?」
国王からの叱責を受けて、レントは肩を震わせて頭を下げた。
レントの記憶の中にあるライト・リースターという息子は、固有魔法一つもまとも扱うことのできない無能者だ。グランドドラゴンはおろか、アサシンキマイラとも戦うことなど到底できない弱者だ。しかし、国王オーウェルはその2体のモンスターを倒したのがライトだと言う。
「王国の戦力になり得たであろう者を廃嫡し、挙句の果てに帝国に流すなど言語道断。今すぐ貴様の首を飛ばしてやりたいところだが……」
「そ、それだけは!?」
国王オーウェルが、使えない人間の首をすぐに飛ばすのは、王国貴族の中ではあまりにも有名な話だ。それが侯爵であろうとも、子爵であろうとも関係ない。オーウェルはただ独裁の為に首を飛ばす。
「ふん……今は戦争中……貴様の首を飛ばす時間も惜しいわ。その代わり、貴様の子爵としての権利を全て剥奪し、戦争が終われば土地も接収する。お前は終わりだ」
「そ、そんなっ!?」
これまで、リースター家は何度も王国を助ける為に立ち上がってきた貴族なのだ。それを、国王が簡単に切り捨てるなどよっぽどの事態。しかし、国王オーウェルは、ライト・リースターという戦力を手放した時点で、リースター家を残すつもりなど元からない。
「よく覚えておけ。お前はもう終わりだ……さっさと玉座の間から失せろ」
「あ、お待ちください陛下!?」
叫びも虚しく、レントは騎士たちによってすぐに玉座の間から放り出された。王城の廊下に一人で這いつくばる惨めな姿を晒しながら、レントは拳を地面に叩きつける。
「ライトぉ……貴様のせいで、この私の権力がぁっ! 許さんぞぉっ!」
レントのその復讐心にも似た感情は、本来ならばライトがレントに対して持つべきものである。しかし、ライトには既にリースター家への復讐心など存在しない。無意味なことだと、理解しているからだ。それが、レント・リースターという子爵家の権力に取りつかれた人間には理解できない。
権力を剥奪されたレント・リースターと、家への感情などなにもないライト・リースター。この2人がリードラシュ王国で顔を合わせるのは、少し先の話だ。
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