第109話 奪還できたみたいです
「大したことないな」
坂を上ってきたモンスターは、10体程度いたが大した強さを持っている奴もいなかったので、ザリード先輩と俺で全てを瞬殺してしまった。ザリード先輩は腰に剣を差しているのに、全く抜く気もなかったらしい。
「魔法祭ではその剣、持っていませんでしたよね?」
「ん? あぁ……こいつは護国の為にしか振らないという家訓みたいなものでな」
どうやらクスヌバルク子爵家に伝わる由緒ある剣らしい。
俺も、聖剣とか魔剣みたいなかっこいい剣とか欲しいなと思うが、剣なんて握った回数も数えられる程度だ。今の俺が剣なんて持っても宝の持ち腐れにしかならないので、やはり魔法主体で考えよう。
「それにしても、さっきの魔法は凄まじいな」
「え? あ、あぁ……さっきのって言うと『大地操作』のことですか?」
グランドドラゴンの持っていた固有魔法である『大地操作』のことを言っているんだろうな。ザリード先輩が『燃焼』でモンスターを4体一気に燃やしたので、俺もそれにならって『大地操作』で残りモンスターの足下から大地の刃を作り出して貫いた。
同じ龍種の魔法ではあるが、クリムゾンドラゴンの持っていた『破壊の炎』とグランドドラゴンの持っていた『大地操作』はかなり使い勝手が違う。
威力と範囲が抜群で、破壊したものが直らないという能力を持つ『破壊の炎』は魔力消費が大きく、発動するのに時間がかかるデメリットが存在する。
グランドドラゴンの『大地操作』は、操作する土の量によって消費魔力量も発動時間も変わるので、モンスターを数体殺す程度なら特にデメリットもない強力な魔法なのだが、グランドドラゴンのように大地を隆起させてそのまま相手を押し潰そうとすると、実は『破壊の炎』よりも魔力を食う。発動時間もそれなりにかかるようになるので、正直あんな超常現象は人間が使うことを許されていない範囲だと思うことにした。
「やはり、お前とはもう一度決闘しておかないとな」
前も思ったが、この人は本当に戦闘狂だな。いや、帝国貴族の嫡子としては正しい価値観なのかもしれない。なんにせよ、王国出身だし前世では喧嘩らしい喧嘩もしてこなかった人生を考えると、こういうガツガツと戦闘に食いつく人はよくわからない。
くだらないことを考えていたら、背後の扉が破壊されて複数人の王国兵が飛び出してきた。全員がまともな装備をしていなかったり、逃げることしか頭にないような表情をしていたが、俺とザリード先輩の顔を見て顔色を失くした。
「……どうやら、奪還作戦には成功したらしいな」
「みたいですね」
この王国兵たちは要塞を奪われたことで、必死になって逃げてきた兵士たちなのだろう。このまま王国に逃げ帰ってもまともな対応はされないとわかっていながら、命を惜しんで逃げてきたのだろう。
勿論、俺もザリード先輩も逃がすつもりなんてないが、なるべくなら傷つけないようにしながら捕らえてやる努力はしようと思った。甘い考えのような気もするが、戦意を既に喪失していて、俺たち2人の顔をみただけで顔色を失うような人間を蹂躙するのは気が引けるのだ。
実力主義の帝国とはいえ、他国の兵士を捕虜にして酷い拷問をすることはないだろう。そう願っておく。
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