第106話 援軍です
「よう、久しぶりだな」
「……そんな言うほど久しぶりじゃないと思いますけど」
「そこは久しぶりです、ぐらい言え」
前線基地へとやってきた男がいきなり話しかけてきたので、適当に対応したら怒られてしまった。いや、本気で怒っている訳ではないと思うが、そもそもそこまで親交がある訳でもないので挨拶されるとは思っていなかった。
「お久しぶりです、ザリード先輩」
「おう」
グランドドラゴンによって、人員にかなりの被害が出てしまった帝国軍の援軍としてやってきたうちの一人が、クスヌバルク子爵家の嫡子であるザリード・クスヌバルク。帝国魔法学園の生徒会書記である俺の一つ上の先輩だ。
帝国魔法祭で戦った時は少し卑怯な手で倒してしまったが、実力のある人だ。援軍として頼もしい人ではあるが、実力主義の帝国らしいと言えばらしいのだが貴族の嫡子、それも子爵家の嫡子であるザリード先輩みたいな人も、ガンガン前線に出てくる姿には苦笑いが浮かんでしまう。
「それで、俺たちはグランドドラゴンによって軍が壊滅的な被害を受けたから援軍として、って話だったんだが……」
「倒しちゃいました。上位等級冒険者たちで」
「そうか。龍種とは少し戦ってみたかったが……仕方ないな」
どうやら、ザリード先輩はグランドドラゴンが出現した話を聞いて急いでやってきたらしい。グランドドラゴン出現から一瞬で出てくる訳がないので、元々この先の作戦で投入される予定だったのが早められたとかだろう。
「てことは、元々の予定通り、援軍の役割はカーナリアス要塞の奪還か」
ザリード先輩たち援軍の元の目的は、王国軍に奪われたカーナリアス要塞を奪い返すことだ。攻めにくく守りやすい国境の要塞を取り返すことができれば、王国に攻め入るにしても、講和に持っていくにしてもぐっと楽になる。
「それにしても、モンスターを倒されたら即撤退とは……王国軍の士気はかなり低いようだな」
「みたいですね……戦意喪失も早かったですし」
モンスターを大量に連れて進軍していたはずの王国軍は、進軍速度が余りにも遅かった。最初は道中のモンスターを味方にしながら進軍しているからだと思ったが、王国兵の中に、モンスターを自在に操れてるような者はいなかったどころか、捕虜にされた王国兵は心神喪失といった様子で、明らかに何かしらの魔法の影響を受けている者ばかり。そのあまりにもガタガタの軍を見て、バーンズ侯爵もアストリウス辺境伯も愕然としていた。
「王国ではもしかしたら、なにか異常事態が起きているのかもしれないな」
「その可能性は高いと思います」
王国側で何があったのか、その事実を知る必要があるのだが、帝国が放っているはずの密偵は何故か一人も帰ってこないらしい。ますます怪しいものだ。もしかしたら、人間ではない「なにか」を味方に引き入れることで王国は優位に立とうとしているのだろうか。
帝国出身の人間は知らないかもしれないが、王国出身の俺には一つだけ心当たりがある。転生してきて、暇すぎるが故に親の目を盗んで適当な本を読み漁っていた時に見た古文書に、その存在が記されていた。
「……悪魔がいるって言ったら、信じますか?」
「……なに言ってんだお前」
「なんでもないです」
ザリード先輩の反応も仕方がないものだ。少し突拍子もない気がするのは確かだし、確定情報にするには王国の内情が分からなすぎる。そも、あの賢王と呼ばれたオーウェルがそんな悪魔を封印から解放する訳がない。
謎は深まるばかりだ。
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