第104話 グランドドラゴン4

「スイッチさん!?」


 グランドドラゴンの頭部に貼り付いているスイッチさんが、恐らくなにかしらの固有魔法を発動させた。『千里眼』でグランドドラゴンのことを見ていた俺は、スイッチさんから流れ出る濃密な魔力に、無意識的に一歩退いてしまった。

 あまりにも禍々しい魔力を放つスイッチさんが、魔法を発動した瞬間からグランドドラゴンの動きがほんの僅かだが鈍った。

 頭の上に人間が張り付ていることに気が付いているのか、グランドドラゴンは魔法を発動して周囲の大地を隆起させて巨大な石柱を自身の頭の上に向かって飛ばした。直線的な攻撃だが速度のある石柱を、余裕の表情で避けたスイッチさんは、俺の隣に降り立った。


「片腕で無茶するんですね」

「片腕? なんのことかな?」

「は?」


 隻腕のままやる動きではないと指摘したが、スイッチさんが不敵に笑って切断されたはずの左腕を左右に動かした。いや、俺の『千里眼』にはグランドドラゴンの上にいた時は隻腕だったのが映っている。ということは、何かしらの手段で生やしたのか。トカゲの尻尾みたいなことするな。


「誤解してると思うけど生やした訳じゃない。私が自分の魔法でくっつけただけさ」

「くっつけた? 切断された腕を?」

「そう。私の魔法は『生命吸収』と言ってね……触れた相手から生命力を吸収してその力を自らのものにすることができる。龍種の生命力は強力だから、少し奪うだけで切断された腕をくっつけて治すくらい訳ないことさ」


 訳ないことではないだろ。

 グランドドラゴンという龍種だからまだ元気にこちらを睨んでいるが、そこら辺の魔物だったら触れるだけで即死させることができる魔法だ。しかもそれを自らの力にするとなると成程、確かに1等級冒険者。納得できる強さだと思う。


「まぁ、詳しい話は後にしよう。スケール、キーニー、ライト君、いけるかい?」

「君の腕の護衛も終わったし、問題ないよ」

「誰に言ってんのよ。腕切断されたくせに」

「いや、キーニーだって攻撃……なんでもないです」

「随分と仲が良くなったみたいだね。いいことだ」


 スイッチさん、少しずれた人だな。


「スケールとキーニーは前衛、僕は中衛、ライト君は後衛、これでいいかい?」

「いいですよ。あ、ライトでいいです」

「……ふふ、ライト君……いや、ライトは緊張感がないね」

「こいつに言われたらお終いねライト」

「みんな緊張感ないよ?」


 こうやって4人という少人数でグランドドラゴンを目の前にしているのに、正直負ける気はしなかった。


「アタシが真っ先に行くわよ!」

「あ! 全くあのお転婆娘は!」

「頼んだよライト」

「お任せください」


 グランドドラゴンの固有魔法は強力で、まさしく天災を引き起こすような魔法だが、もう慣れた。この3人なら遠慮なく援護しても避けてくれるだろうという信頼があった。

 俺は『翼』を発動して空へと上がる。大地の龍と言うことでグランドドラゴンに対して『雷撃の槍』は相性が悪い。最悪、見向きもされずに土の壁を立てられて終わりだ。ならどうするか。龍種には龍種の魔法だ。


「シアン、少し無茶するぞ」

『大丈夫、私の魔力なら幾らでも持って行って!』


 シアンから流れ込んでくる澄んだ魔力を、自らの物として構築式を展開する。イメージするのはどこまでも力強く、全てを支える土台としての強さ。そして、時には人間に牙を剥く圧倒的な質量の天災。

 お手本は嫌と言うほど見せられた。失敗するはずは、ない!

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