第102話 グランドドラゴン2

「スケールさん! スイッチさんをお願いします!」

「わ、わかった!」


 スイッチさんは動きから見て右利きだろうが、それでも片腕を失うというのは想像以上に動きが制限されるものだ。もしかしたら、スイッチさんは再起不能かもしれない。それでも、グランドドラゴンはここで仕留めなければならない!

 もし、このまま俺たちが撤退してしまえば、次に犠牲になるのはここに向かっている冒険者たちだ。その次は、恐らく帝都になる。ここは絶対に、退けない!


「はぁッ!」


 俺は『未来視』によってどこから武器が飛び出してくるのかも対応できる。そして、グランドドラゴンが身に纏った土の鎧もなんとかできるだけの手立てがある。

 加速しながら『切断』を付与した手刀で大地の刃や槍を打ち砕いていく。前方から伸びてくる槍を手刀で薙ぎ払い、同時に背後から迫っていた刃を首を捻って避ける。グランドドラゴンが一瞬たじろいだように魔力を揺らした。恐らく、背後からの不意打ちで倒せると思ったんだろう。だが、俺の持つ『未来視』は断片的にだが連続で未来を予知し続けている。


「同じ龍種の魔法、防げるものなら防いでみろ!」

『行くわよ!』


 グランドドラゴンの守りを崩す方法。それは、グランドドラゴンと同じモンスターの頂点に立つ龍種、クリムゾンドラゴンの魔法『破壊の炎』である。高温の炎によって土すらも融解し、破壊したものを修復できなくする特性を持つ魔法ならば、グランドドラゴンの異様なほど硬い守りも崩せる。

 クリムゾンドラゴンが操る火球ほどの大きさではないが、人間の身長ぐらいの直径を持つ火球を生み出し、それをグランドドラゴンに放つ。『破壊の炎』の弱点である発生の遅さは『未来視』で予知した攻撃を『強化』した『障壁』によって防ぐことで補い、膨大な消費魔力は契約精霊であるシアンと協力することで補う。


 自分と同じ龍種を幻視したのか、グランドドラゴンは牙を見せて威嚇の姿勢を示した。どうやら、グランドドラゴンにはやはり言葉を喋るだけの知性が残っていないらしい。操られる過程で消されてしまったのだろうが、是非とも感想を聞かせてほしかったものだ。

 自らを殺しかねない炎が迫っている中、威嚇する感想を。


 グランドドラゴンは複数の土の壁を作り出して『破壊の炎』を止めようとするが、そんなもので止まるほど甘い魔法ではない。実際、クリムゾンドラゴンと戦った時に『破壊の炎』を止められたのは辺境伯と俺の模倣による『破壊の炎』だけだ。


「ギュオアァ!?」


 抵抗虚しく、土の壁を貫通して『破壊の炎』はグランドドラゴンの顔に直撃した。身体を地面に潜らせて逃れようとしたようだが、それよりも速く『破壊の炎』は敵を捉えた。

 グランドドラゴンの身体を覆っていた土の鎧を融解させ、下から出てきた硬い鱗も熱で焼いていく。どれだけ硬い鱗を持っていようとも、土をも融解させるような熱を持つ火球をそのまま受けて無事で済むはずがない。


 これで無敵にも感じたグランドドラゴンの守りは崩した。後は慎重にことを進めながら命を刈り取るだけだ。幸いにして、グランドドラゴンの攻撃手段は土を操って武器を作り出すことだけの様だ。故に、攻める手も俺一人で充分に足りる。


「グルゥアァァァァァ!」

「なにっ!?」


 グランドドラゴンが雄叫びを上げながら『破壊の炎』を消し飛ばすまで、俺は本気でそう思っていた。

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