第101話 グランドドラゴン1

 自分たちが立っている大地から攻撃されるというのは、とても厄介なことだ。

 もしかしたら今も敵に狙われているかもしれない。そういう疑心暗鬼が行動の選択肢を狭め、命が落ちる瞬間まで逃げ続けることになる。


 俺が『未来視』で予知した未来を伝える前に、実際にその予知は事実になった。


「『停止』! スイッチさんっ!」


 すぐさま『翼』で退避した俺以外の三人は、土の刃によって襲われる寸前で俺の『停止』が間に合った。

 キーニーは、反射神経で致命傷を避けて脇腹を掠める程度で済み、首に迫っていた一本は俺が停止させた。

 スケールさんは、既に抜いていたレイピアで腕に向かってきた刃を数本破壊して、足を貫こうとしていた刃を停止させた。

 スイッチさんは、魔力を解放して右手の手刀で迫っていた頭に向かってきた刃を破壊し、腹を貫こうとしていた刃を俺が停止させたが、左腕の肘から先を切断された。


「くそっ!?」


 既にグランドドラゴンは俺たちの下にいたのだ。土の中から顔だけ出した茶色の体躯をした龍は、全員が生きていることを確認してから大きく口を開けた。


「ギュアアァァァァァァァ!」

「スイッチを頼むわよ!」

「僕も前に出る!」


 片腕を切断されたスイッチさんは、ゆっくりと膝をついて飛ばされた左腕を見つめていた。俺が持っている固有魔法の中に、切断された腕を治す魔法などない。アーノルドの『自己治癒促進』はあくまで自然治癒に頼る力であり、切断した腕を即座に治すことなど不可能だ。


「大丈夫ですか?」

「……うん。少し、君の生命力を貸してくれれば大丈夫なんだけど、今の状況じゃそうも言ってられなさそうだね」

「生命力?」


 スイッチさんが何を言っているのかわからないが、大きな音がしたのでグランドドラゴンの方へと視線を向けると、キーニーの『浸食』をその身に受けていた。大きい図体ではキーニーの攻撃を避けきれなかったようだ。


「どうよ、アタシ『浸食』は龍種だろうと貪り食らうわよ」


 穴から身体を出したグランドドラゴンは、斬りつけられた頭から『浸食』が進んでいることを理解して、脱皮した。


「脱皮ですって!?」


 それ以外の言葉で説明ができない。今、グランドドラゴンは脱皮したように見えた。キーニーの『浸食』は外側の部分だけを貪り食らうだけで、グランドドラゴンの本体にまでは届いていない。


「脱皮じゃない! それはグランドドラゴンが纏っていた土の鎧だ!」


 スケールさんの警告も虚しく、キーニーの横にあった大地が人の拳のような形に姿を変え、そのまま腹を殴ってキーニーを吹き飛ばしてしまった。

 今、グランドドラゴンは魔法を発動したのは確かだ。俺の『千里眼』にも魔力が見えたし、固有魔法の構築式も複雑だが見ることができた。ただ、あまりにも不規則な範囲で魔法を発動しすぎている。


「こ、この魔法は……あまりにも自由すぎるぞ」


 キーニーが殴り飛ばされた方向へ視線を向けながら、グランドドラゴンは魔法を発動して再び身体に土の鎧を纏いだした。それを察知して防ごうとレイピアで攻撃を試みたスケールさんは、奇跡的な反射神経で足下から現れた土の槍を避ける。

 クリムゾンドラゴンのように人間を侮っている訳でもなく、自らの固有魔法を応用して色々な手段で戦おうとしている。しかし、土を操る曖昧な能力がここまで強いものだとは思わなかった。

 なにか対策を考えて戦わなければ、全員がやられてしまう可能性がある。


 複数の固有魔法を扱える俺が、なんとかしなくてはならない!

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