第99話 一応、撃退です
「ふぅ……久しぶりに全開で『浸食』使ったわ」
キーニーの言葉に苦笑を禁じ得ない。
周囲にもたらす被害を考えれば、キーニーが自分と同等以上の相手としか組みたがらない理由も、それでも全開で固有魔法を使えない理由も納得してしまう。
アサシンキマイラはなんとか即席チームで討伐できたが、嵌め殺しに近い連携だったので一対一で戦うと面倒そうな相手だ。
「シアンは魔力が見えるのか?」
『精霊は見えるわよ。だから、あなたが考えているようにアサシンキマイラの擬態も見抜けるわ』
「へぇ」
俺は『千里眼』があるのとシアンがいるのでなんとかなりそうだが、精霊眼もない人間が一対一でアサシンキマイラの相手をするのは苦労するだろう。
「おっと、まだ生きてたね」
炎の壁が消えていくのを見ながらスケールさんの方へと視線を向けると、切断した尻尾の蛇がレイピアで頭を貫かれていた。どうやら切断しても生きていたらしく、牙から紫色の毒液を流しながら絶命していた。
「炎は吐くし、姿は消えるし、動きは速いし、毒はあるし……王国にはこんなモンスターがいるんですね」
「まぁ、帝国にも面倒なモンスターはいるけどね」
冒険者としての活動日数がまだ少ない俺でも、クリムゾンドラゴンなんてものと戦うことになるのだから、多分スケールさんもキーニーも色々面倒な相手と戦ってきたんだろう。
炎の壁が完全に消えた頃には、周囲のモンスターは大体片付いていた。流石に5等級冒険者ともなると個人差は激しいが、全員が実力もそれなりに秀でている。まだ片付いていないところも、この調子ならなんの問題もなく勝てそうだ。
「……それにしても、この程度で帝国に勝てると本当に思ったんですかね?」
「さぁ? もしかしたらもっととんでもないものを隠し持っているかもよ?」
モンスターを使役していることには少し驚いたし、まともに育っていない軍人を使う位ならばモンスターを使おうという判断も間違ってはいないと思うが、それでも王国と帝国の戦力差は圧倒的だ。カーナリアス要塞は半壊していたからモンスター相手に不利に働いた結果だが、これ以上の進軍をしたところで勝てる見込みは薄い。
「で、伝令! バーンズ侯爵率いる軍隊が敗走!」
「……なにがあったか聞いてもいいかい?」
伝令を聞いたスイッチさんは、落ち着いた声で伝令兵の続きを促した。
「戦局を優勢に進めていたところ、地中から巨大な茶色の蛇のようなモンスターが現れ、帝国軍を蹂躙していったとのことです」
モンスターの一体で戦局をひっくり返された。その報告を聞いて、上位等級冒険者たちの間に戦慄が走る。そんな強大なモンスターまで使役できるとは、誰も思っていなかった。何故ならば、一体で戦局をひっくり返せるモンスターなど誰も知らないからだ。
「モンスターの特徴は?」
「へ、蛇のように長い体躯に、武器を簡単に弾く強靭な鱗。そして地中を自在に移動しながら、大地を意のままに操る魔法を使うそうです!」
「グランドドラゴン……龍種の一体か」
また龍種か。
クリムゾンドラゴンといい、王国に利用されるのがお好きらしい。伝説の生き物であるはずのドラゴンが揃いも揃って情けない有様だが、これで敵の能力が大体理解できてきた。
仮にもこの世の中に存在するモンスターたちの頂点に立っているはずのドラゴンが、簡単に人間に従うことはないだろう。ましてや、人間と人間の戦争などと言う全く関係もないような戦いに利用されることを、龍種というプライドの塊が頷くはずがない。
つまり相手は、それがモンスターであるならば無条件で従えることができる、洗脳に近いような能力を持っている可能性が高い。クリムゾンドラゴンには理性があり、会話することができたが、そのグランドドラゴンには意識もないかもしれない。
どちらにせよ、王国側にはとても厄介な魔法師がいることは確かだ。それが、人間である保証はないが。
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