第97話 強敵です
「全く、女心ってものがわかってないわね」
「いや、すいません……本当に悪かったです」
今回の件に関しては俺とスケールさんが10割悪い。女性の胸に関しては触れないことが肝心なのだと理解しておかなければ。
緩んだ空気の中、背後から複数人の冒険者たちがようやく追い付いてくるのが見えた。集団の先頭を走っていることは理解していたが、まさかこんな置いてけぼりにしているとは思っていなかったので、少し申し訳なく思いながら冒険者たちの方へと視線を向けようとしたところで、発動したままにしていた『千里眼』に変なものが映り込んだ。
「なにかいます」
「あんた、感知系の魔法も使えるの?」
「いえ、視界の端に少し映りました……視界の広さは自信がありますから」
不意を突かれないように『千里眼』と『未来視』を全開にする。再び視界の端に何かが通り過ぎたのを確認してから、キーニーの背後に視線を向けると、そこには既に人間の数倍はある体躯が迫っていた。
「『障壁』!」
「っ!?」
咄嗟に発動した『障壁』が、キーニーを背後から襲おうとしていたモンスターの爪を防いだ。
「……アサシンキマイラかな」
「アサシンキマイラ?」
獅子の頭に山羊の胴体、蛇の頭がついている尻尾を持っている怪物を前に、スケールさんがそのモンスターの名前らしきものを呟いた。キマイラは前世からの知識でぼんやりとイメージはつくが、アサシンと言うのが良く解らなかった。
「王国領にしかいない2等級指定のモンスターよ」
「微弱な魔力を体表に纏わせて景色と一体化することができるキマイラだよ。その体躯に見合わない隠密能力と速さを活かした狩りで得物を捕えることからアサシンキマイラなんて呼ばれてるんだ」
「……俺の視界に映ったのはこいつの魔力ってわけですか」
こんな巨体ならば『千里眼』の端に少し映る程度で済む訳がない。俺が捉えていたのは、こいつの体表に纏わせている微弱な魔力だったわけだ。
「それにしても2等級モンスターでもお構いなしに従えるとはね」
アサシンキマイラが2等級モンスターならば、3、4、5等級の冒険者である俺たちでは本来なら荷が重い相手と言うことになる。
いつの間にか近寄ってきていたアサシンキマイラと共に、再び複数のモンスターとそれを従える王国軍の兵士たちもゆっくりと俺たちを取り囲んでいる。『千里眼』に映っている王国軍の兵士が少ないのは、恐らくバーンズ侯爵が率いる帝国軍とどこかで衝突しているからだろう。
「アサシンキマイラは僕らでやるとして、他のモンスターたちも通すわけにはいかないよね」
「はい。このまま通せばバーンズ侯爵が率いている軍勢に被害が出ると思います」
確認はしてないが、このまま街道をまっすぐ進めば王国軍と帝国軍の戦場につくのだろう。『千里眼』で確認すればすぐにわかるが、今はアサシンキマイラの居場所を見失いたくないので使えない。
「その他のモンスターは後ろの冒険者に任せて、アサシンキマイラだけを始末するわよ」
「……できるんですか?」
「そのためのアタシの固有魔法よ」
ギャルっぽい可愛い顔からは考えられないような凶悪な笑みを浮かべながら、キーニーは魔力を放出して固有魔法を発動させた。
「アタシの固有魔法は『浸食』! 発動した状態で触れた生物をただひたすら貪り食らう、全く可愛くない魔法よ! あんたらも触れないように気を付けなさい!」
キーニーが『浸食』を発動すると、アサシンキマイラ以外のモンスターたちが一歩退いた。本能的にキーニーに近寄ることを恐れたのだ。
「なら俺が舞台を整えますよ!」
気が付かれないように伸ばしておいた魔力の糸に『燃焼』を発動させてアサシンキマイラと俺たち三人を区切るように炎の壁を形成した。
「壁は数分しか持ちませんからね!」
「十分よ!」
獰猛な笑みを浮かべたまま鎌に『浸食』を纏わせたキーニーがアサシンキマイラに向かって飛び出した。
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