第95話 想像以上にえげつないです

「うわぁ……」


 魔力で身体強化をしたまま敵の大群に向かって突っ込んでいたキーニーは、麻痺毒で動けなくなっているモンスターの首を、的確に鎌で斬り飛ばしていた。ギャルみたいな茶髪を揺らしながら、高速でモンスターの間をただ走り抜けているように見えるが、彼女が通った後のモンスターは全て首が落ちている。まさに死神と呼ばれるに相応しい光景だろう。


「ギュイェ!」

「ん? おっと……お前らのことを忘れてたよ」


 翼の生えている鳥型のモンスターが数十匹、空の上にいる。確か名前は「シャープクロウ」だったか。鋭い爪と嘴で攻撃してくることからつけられた名前らしい。地上のモンスターは二人に任せて、俺はこのカラスを片付けなければならない。

 同じように翼を使って飛んでいる俺に向かって何匹か突撃してくるが、俺に辿り着く前に横から放たれた『風の刃』に叩き切られて地上に落ちていった。


「ギィ!? ギュエ!」

「ほっ!」


 風が飛んできた方向へと視線を向けたシャープクロウには『風の刃』をぶつけてやる。簡単に真っ二つになって死んでいった。シャープクロウはそこまで等級が高くないモンスターなので仕方ないが、呆気ないものである。

 仲間と言う概念があるのか、仲間をやられて怒りの声を上げながら何匹かが再び突っ込んでくるが、やはり俺には届かずに切り裂かれている。


「ギィ!?」

「ん? シアン!」

『えぇ!』


 俺と契約した精霊であるシアンは、俺の言葉に反応して『認識阻害』を解除する。同時に、シャープクロウを横から切り裂いていた俺の分身の姿が見えるようになった。

 シャープクロウの群れがこっちに向かって飛んでくる前に、分身をシアンの能力である『認識阻害』で見えなくしていたのだ。ただ、シャープクロウも見えない敵がいることに気が付いて、俺の周囲をぐるぐると周回し始めたので能力を解除させ、分身も消した。そうすれば、シャープクロウは必ず全方位から同時に突撃してくるだろうと判断した。予想通り、シャープクロウは分身が消えたのを確認してから中心にいる俺に向かって突撃してきた。


「頼むシアン」

『任されたわ!』


 シアンが俺に触れて再び『認識阻害』を発動する。同時に最後尾にいたシャープクロウと位置を『交換』してから『破壊の炎』を小さめに展開する。

 俺の姿が中心から突然消えて統率が乱れたシャープクロウの群れに向かって、小さ目の『破壊の炎』を放つ。クリムゾンドラゴンの放つ必殺の炎は、この程度の大きさでも十分な威力を持っている。

 大爆発と同時にシャープクロウの群れは消し飛び、飛行型の魔物を全て片付けたことになる。


「さて、どうかなっと……えぇ?」

『わぁ……すごいわね』


 シャープクロウを全て片付けたので下の様子を見ると、返り血に塗れたキーニーが鎌を振り回しながら暴れ、群れから外れた魔物をスケールさんがレイピアで仕留めていた。ただモンスターを狩っているだけの図ではあるのだが、二人の攻撃速度が異常で、最早モンスターは二人を認識することもできずにただ殺され続けていた。

 思ったよりもえげつない光景に、少しだけ引いてしまった。4等級冒険者と3等級冒険者ならこんな戦闘になるのは仕方ないのかもしれないが、二人はこれで固有魔法を使っていないのだから驚きである。

 固有魔法しか使っていない俺とは正反対だ。

 やっぱり武器とか使えるようになった方が便利かな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る