第94話 モンスターの大軍勢です

 スイッチさんの指揮の元、冒険者たちはモンスターを率いて進軍しているという王国軍へと向かって走っていた。通常の人間よりも優れた身体能力を持つ者が多い冒険者は、進軍速度が普通の軍隊とは比べものにならない。

 遊撃部隊なこともあって、全員が足並みをそろえている訳ではないし、出された指示も互いの邪魔になるような広範囲魔法の禁止だけで、ただモンスターを殲滅すればいいと言われている。

 上位等級冒険者は国の所属になっているとはいえ、軍人のように普段から行軍や団体行動の訓練を行っている訳ではないので仕方ないことだが、自由な進軍と言うのは案外楽だった。


「敵は見えるかしら?」

「バッチリ見えますよ。このまま街道を真っ直ぐ……この速度なら数分で会敵します」

「わかったわ」


 現在、スケールさんとキーニーの速度を合わせるように『翼』で飛行しながら、便利な『千里眼』で敵の場所を把握しながら飛んでいた。3等級の冒険者であるスケールさんと4等級冒険者であるキーニーは、身体強化の魔法で冒険者集団の先頭を走っている。俺はその上空を飛んでいるが、二人は馬車を超える速度で走っているので、改めて他の冒険者とは能力が違うのだと思い知らされる。


「僕の固有魔法は戦闘向きじゃないから、基本は後詰をさせてもらうよ」

「アタシの魔法も大群相手にはあんまり有効打にならないわよ?」

「なら俺が上空から牽制しながら数を減らします」

「頼むよ」


 キーニーの固有魔法は事前に聞いていないが、どうやら一対一で使った時の方が効果的に作用するようだ。そうなると、必然的に手札が多い俺が余った役割をすることになる。今回の場合は俺が広範囲の殲滅と牽制だ。


「……飛行してる魔物は少なそうなので全部こっちで引き受けます!」

「了解、それじゃあ頼んだよ」


 既に肉眼で見ることができる近さまで接近しているので、もう俺が二人に速度を合わせる必要はないだろう。『加速』を使用して一気に飛行速度を上げて魔物の軍勢へと接近して全体にばらまく様に魔法を放てばいい。


「まずは相手の足を止めるのが先決か」

「な、なんだ!? 帝国軍か!?」

「馬鹿なっ!? 対応が早すぎるぞ!」


 キーニーとスケールさんの攻撃方法は、どうやら身体強化にものを言わせた物理攻撃らしい。ならば俺がすることは積極的な攻撃による殲滅ではなく、広範囲の敵の足を止めることだ。

 カーナリアス要塞を抜けてそのままやってきた王国軍人が、モンスターの群れの中でこっちを見て驚いている姿が見える。ただ、戦争なので手加減してやる理由もない

 俺は『分身』を使って身体を二つに分け、同時に毒に『強化』をかけた『毒矢』を『加速』させて雨のように放つ。固有魔法の『毒矢』は帝国魔法祭の時に盗み見した生徒の魔法だが、フリム教授との実験で毒の効果は精々感覚が少し麻痺する程度であると知っている。しかし、その麻痺毒を『強化』してやった。


「ど、毒だ……しま、った」

「く、くそ……」


 雨のように降ってくる加速した矢そのものに強い殺傷能力はないが、強化された麻痺毒は二回も受ければ倒れ込むようなものになっている。鎧を着込み、盾で防ぐことができる兵士や、固い甲殻を持つモンスターは関係なくても、それ以外は大きなダメージを受けることになる。


「やるじゃない! スケール、後ろは任せるわよ!」

「わかってるよ!」


 俺の麻痺毒による先制攻撃で統率が乱れたモンスターと王国軍に向かって、レイピアを持つスケールさんと、巨大な両手鎌を持ったキーニーが飛び込んだ。

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