第93話 予想外の事態です

「よく集まってくれた。私はこの前線指揮官を務めさせてもらうカレラ・バーンズだ」

「バーンズ侯爵が指揮を?」


 いきなり大物が出てきた。帝国が実力主義である関係上、大物貴族が前線で指揮を執ること自体はそれほど珍しくないことらしいが、まだ宣戦布告からすぐだと言うのによくもこんな大物が出てきたものだ。


「諸君らの中には知っているものもいると思うが、宣戦布告から4日……カーナリアス要塞が陥落したらしい」

「は?」


 いくら半壊していたとはいえ、数十年間帝国を守り続けていたはずのカーナリアス要塞が開戦から4日で陥落したという事実は、多くの人間を動揺させている。かく言う俺も、アストリウス辺境伯が守護しているカーナリアス要塞がこんなにも早く陥落するとは思っていなかった。


「リンドール・アストリウス辺境伯は無事なのですか!?」

「その話も含めて、今から情報を開示する」


 動揺したような声を上げた騎士を落ち着かせるように、バーンズ侯爵は静かに語り出した。


「まず、アストリウス辺境伯は事前の作戦通りカーナリアス要塞を破壊して撤退している。アストリウス辺境伯の騎士たちも死傷者は少ないようだ」


 事前の作戦とは、恐らく予想外の事態が起きてカーナリアス要塞が奪われそうになった時に、わざと破壊工作を行うことでカーナリアス要塞を相手が使えないようにするといった策だろう。

 つまり、辺境伯が要塞を破壊して撤退したということは予想外の事態が起きているのだ。


「そして、カーナリアス要塞が陥落した理由は……大量のモンスターが王国兵と共に襲い掛かってきたから、だそうだ」

「モンスターが? 王国がモンスターを使役しているというのですか!?」


 あり得ない話ではないと、クリムゾンドラゴンの事件を知っている者は全員が思ったはずだ。そして、そのモンスターを使役する力があるからこそ王国は帝国との戦争に踏み切った。戦力差を、モンスターで埋めようとしているのだ。


「モンスターの種類は大量だが、中にはコボルトロードまで含まれていたらしい」

「5等級のモンスターですか……それでカーナリアス要塞が」


 コボルトロードと言えばコボルトを従える群れの長で、単独でも6等級冒険者が複数人いないとまともに戦えない強力なモンスターのはずだ。

 王国側は本当にモンスターを使役しているらしい。これはとても面倒なことだ。なにせ、モンスターは人間の兵士と違って士気も食糧も必要ない。使い捨ての駒としてこれほど動かしやすい存在もいないだろう。


「これから王国軍は恐らく、このまま帝都まで真っ直ぐ行くはずだ。道中のモンスターを使役して軍勢を増やしながらな」


 一番厄介なのは、道中で補充できるという点なのか。確かに、帝国領にもモンスターは存在するので、道中で兵士を補充できる行軍と考えると極めて厄介だ。

 ただ、これで5等級以上の冒険者が集められた理由も理解できた。


「王国軍とは帝国軍人である我々が戦う。そして、5等級以上の冒険者には使役されているモンスターの中でも等級が高く面倒なモンスターの相手をしてほしい。等級の低いモンスターは騎士と傭兵で十分に対応可能だ」

「やっぱり遊撃か。ま、モンスターが相手ならいつも通りで済みそうだね」


 人間と戦うのは軍人に任せて、モンスターに集中すればいいというのはありがたい話だ。それならば冒険者はいつも通りの仕事をしていればいいことになるのだから。


「冒険者たちの総合的な指揮は私の騎士であるスイッチ・モーリスに頼む」

「よろしく」


 まぁ、妥当な判断だ。

 騎士でありながら、冒険者の中で最も格の高い1等級冒険者であるスイッチさんの指示ならば、全員が従うはずだ。


 王国に出鼻は挫かれてしまったが、それでも戦力は帝国の方が上なことは変わらない。さっさとモンスターごと追い払ってしまえば、それだけでこの戦争に決着がつく。

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