第91話 冒険者は前線みたいです
「や、ライト君」
「どうもスケールさん」
呼び出されてやってきた冒険者協会本部には、既に多くの冒険者が集まっていた。前回のように5人しかいないということはなさそうだが、いきなり知り合いに出会えたのは幸運だったと思えるほどの人が集まっている。
「スケールさんも呼び出されてきてるんですよね?」
「ん? まぁ一応そうだけど、僕は固有魔法の『転写』もあるから、結構冒険者協会で書類仕事していることが多いんだよね」
それはつまり、スケールさんは半分くらい冒険者協会住み込みみたいなものってことか。なんか、帰宅できないブラック企業で働いている社畜みたいだな。でもこの人、固有魔法が戦闘系じゃない代わりに身体能力だけで4等級冒険者なんだよな。
「それにしても、リードラシュ王国は本当に宣戦布告してきたね。しばらく前からしてくるとは言われていたけど」
「……どうなりますかね」
戦力差を無視して宣戦布告をしてきたということは、それを覆せるだけの作戦があると考えるのが普通なんだが、暗愚王となったオーウェルはなにを考えているのか全く分からないので何とも言えないだろう。
「冒険者は遊撃部隊として結構こき使われるみたいだからお互いに死なないように気を付けようね」
「えー……本当ですか?」
「本当だよ。帝国が前に戦争したのは30年前くらいだけど、その時も冒険者が活躍してたみたいだからね」
帝国の実力主義を考えれば、そうやって活躍した冒険者には爵位を与えていると思う。恐らく、一代限りの騎士爵を与えられている人なんかはその戦争時代の功労者なのだろう。
そう考えると、戦争の前線に出される兵士になるとわかっているのに、これだけ士気も高そうな連中が集まる理由もわかる。彼らは名誉と金を求めて、この戦争に意欲的なのだろう。敵が格下のリードラシュ王国とあっては尚更だ。
「あら生意気野郎じゃない」
「……スケールさんもやっぱり爵位とか欲しいんですか?」
「うーん……そうでもないかな」
「無視してんじゃないわよ!?」
意図的に無視してるんだよなぁ。だって関わると面倒くさそうだし。
「アタシのこと馬鹿にしてんでしょ。敬えって言ったわよね」
「いや、初対面の人に童貞臭そうとか言う人は敬えないかなーって」
「いつまでも気にしてんじゃないわよ。そんな小さな心だから童貞なのよ」
「はー、よく言いますね」
本気でムカつくなこのキーニーとかいう女。
「まぁまぁ。仲良くしろとは言わないけど、こんな所で構えないでよ二人とも」
「はん!」
スケールさんは俺とキーニーが魔力を滾らせていることに気が付いていたらしい。もう一回ぐらい挑発されてたら『強化』を乗せた拳が飛んでたかもしれないから、スケールさんには感謝しておこう。このキーニーとかいう女は絶対、後で決着付けてやる。
「それで、キーニーも向こうの方で、みんなで組もうみたいな話してるのがどうでもいいからこっち来たのかい?」
「当たり前でしょ。あんな雑魚共と組んだってなんの得にもならないじゃない」
「え、なにそれ知らない」
向こうは事前に数を揃えているらしい。俺は人混みに流されるまま歩いていたらスケールさんに話しかけられただけなんだけど。
「やめときなさい。アタシたちみたいな5等級以上の冒険者の義務と違って、あいつらは志願制なんだから……実力なんてたかが知れてるわ」
「まぁ、そうですけど」
キーニー、俺の実力は認めてくれているらしい。まぁ、5等級冒険者になるまで相当苦労したって言ってたし、5等級以上の実力は認められているのかもしれない。
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