国家戦争

第90話 宣戦布告されたようです

「おはようございますフリム教授」

「うむ」


 朝から嫌なニュースを聞いてしまったため、少しテンション低めに挨拶をしたが、フリム教授も新聞を難しそうな顔で読んでいた。このタイミングで真剣に読む記事の内容など、リードラシュ王国から正式にだされた宣戦布告しかないだろう。


「本当に戦争を始める気なのか王国は」

「戦力差は圧倒的だと思いますけどね。賢王とまで呼ばれたオーウェル・ヴァン・ソレイユ・リーダリラらしくない」

「……ここ数年のリードラシュ王国は賢王オーウェルの乱心によって荒れているようだからね」


 俺が生まれた時のリードラシュ王国は、それなりに平和で帝国との関係もここまで拗れていなかった。それが、ある時期から唐突に税金が重くなり、軍備増強路線へと走り出した。それだけならば、ずっと遅れを取ってきた帝国への対抗策だとなんとか理解できるのだが、あろうことか王都ロンディーナを黄金都市とのたまい無駄に豪華にし始めたのだ。もうその頃には国民から賢王オーウェルへの信頼は失せ、暗愚の王として陰で無能を囁かれる者になった。


「正直、王国がなにを考えているかわからないのよね」

「アリスティナ……いたんだ」

「いたわよ」


 マジで気が付かなかった。


 帝国民からしても王国がなにを考えているのかわからないのだろうが、元王国民の俺が断言する。王国民もオーウェルがなにを考えているのかなんて知らない。


「この戦力差では帝国との戦争など起こすだけ無駄だと思うが……なにかあるのかもしれん」

「まぁ、どちらにせよ学生である私たちには関係ないことです……ねぇ?」

「え? 俺は5等級冒険者だから、多分前線に出るぞ?」

「は?」


 フリューゲル公爵令嬢に同意を求められても、俺は平民で冒険者なんだから戦争に参加するのは当たり前では?


「だ、大丈夫なの!?」

「大丈夫だって……そこまで戦争が激化するとは思ってないよ」

「そう言うことじゃないわよ!」


 なんだか、最近アリスティナが過保護になってきた気がする。

 アリスティナがここまで俺を気にかけてくれるのは、友達だからなのか、それともリリアナ殿下と同じような心をアリスティナも俺に向けているのだろうか。後者だと少し嬉しい気もするが、また気苦労が増えそうだ。


「わ、私が貴方を心配しているのは、私と同じ翼を持つ人だから……だし」

「……そっか」


 それは考え方によっては恋慕の感情より重くないかな。

 自分の唯一無二の白い翼を持つ相手だから、そうやって気にかけている。やはり凄く重い物を託された気分になってきた。だが、俺もアリスティナの翼を気に入っているので今更手放したりはしないし、使う限りアリスティナがそうやって思ってくれるのならばその想いも受け止めてあげよう。


「アリスティナ君、仕方あるまい。それが戦争だ」

「でも……ライトは学生で……」

「大丈夫だって。実際、そんなに戦闘行為をするような激戦区にいくかどうかはわからないんだからさ」


 見かねたフリム教授が苦笑しながら諫めてくれたが、やはり自分と同じ年の人間が戦場に行き、公爵令嬢だからという理由で自分は戦場に行かないという状況が気に入らないらしい。やはり彼女は優しい。


 戦争自体には少し乗り気なんて言ったら、怒られそうな雰囲気である。

 この世界の戦争がどんなものか少し気にはなるが、命の危険に自分から頭を突っ込む勇気はまだない。俺は生まれも育ちも平和な世界出身なのだ。


「本当に気を付けなさいよ」

「うん……まぁ、明日には冒険者協会本部に呼び出されてるんだけどね」


 笑って報告したら腹を殴られた。

 理不尽では?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る