第88話 精霊と契約します
「精霊と契約することで魔力量を増やせることはわかりましたけど……どうやって増やしてるんですか?」
「精霊は魔力で構成された存在で、正確に生きているという訳ではないのですが、その精霊から魔力を貰って魔法を使うことができるのです。つまり、自分の体内とは別に魔力を補完できる場所を増やす、みたいな感覚かしら?」
「なるほど」
精霊と契約することで外付けハードディスクを増やすことができる、と考えれば早いな。リリアナ殿下は俺みたいに規格外の魔力量を持っている訳でもないのに、固有魔法の『停止』を乱発していたのは、精霊から魔力を分けてもらっているから、憂いなく魔法を使えるのだろう。
「それで、精霊との契約はどうやって?」
「それは簡単ですよ。自分の魔力に惹かれてやってきた精霊の名前を聞く。そうすることで精霊と契約することができます」
名前を聞くと言うのは少し面倒そうだが、それさえ済ませてしまえば魔力量をかなり増やせそうだ。やってみる価値はある。
「……後天的に精霊眼は開花したりできないのですか?」
「そういう事例は学会でも聞いたことはない。と言うより、精霊眼を持って生まれる者が少なすぎてイマイチよくわかっていないというほうが正しいのかもしれん」
「むぅ……私の『強化』もあまり燃費がいい方ではないから、なにかあればいいと思ったんだが」
アガルマ先輩がフリム教授と何か話しているが、恐らく自分も精霊眼が欲しいと思ったのだろう。『強化』の固有魔法は俺もよく使わせてもらっているからわかるが、強化の倍率によってはかなりの魔力を消耗する。魔力はあればあるほど便利なものだ。
「さ、魔力を放出して精霊を引き寄せてみてください」
「はい」
俺の魔力の色は無色透明なのだが、この無色透明の魔力を体外に放出するというイメージがとても難しい。他の魔法師は自らの魔力質を感覚的に理解して魔力を放出できるらしいが、俺は色々なイメージが邪魔して上手くできないのだ。
上手くできないだけで、全く放出できない訳ではないので言われた通りに魔力を放出する。魔力の総量から考えると、とても少ない魔力が体外に放出されていくのが見える。
「……本当に無色透明で綺麗な魔力。こんなに綺麗な魔力なら、きっと素晴らしい精霊が釣れますよ!」
「精霊釣りですか」
なんだか恐れ知らずなことを言っているような気がするが、気にしないでおこう。
「大丈夫。私は貴方の全てに惹かれているから、きっと貴方の素晴らしさを理解できる精霊も現れてくれます」
「それ、慰めてるつもりですか?」
『いい男がいるわっ!?』
「うわっ!?」
ぽつぽつと小さな精霊が集まり始めたところに、突然喋りながら突撃してくる淡い水色の髪をもった女性型の精霊が飛び込んできた。
今、いい男って言ったか?
魔力の放出って、そんな昆虫のカップル探しみたいな感じなの?
「人の言葉を解する精霊……凄いものが釣れましたね」
「言葉? そもそも私たちにも見えるぞ?」
「精霊の力が強すぎると、精霊眼を持たなくとも見ることができるの。姿を消すこともできますけど……する気はないみたいですね」
どうやら、マリス先輩やアガルマ先輩、フリム教授にもこの精霊の姿は見えているらしい。ただ、リリアナ殿下の表情から推察すると、俺とリリアナ殿下にしかこの精霊の放つ光は見えていないらしい。
「……眩しくてまともに顔が見れないんだけど」
「そうですね。少し光を抑えていただけると嬉しいです」
「光? 全く見えないが」
「魔力が見えるとそんなこともあるのか」
この視界を妨害するように光っているのは、この女性型精霊の放つ魔力。とても澄んでいるのはわかるのだが、このままでは顔が全く見えない。
『あらごめんなさい。いい男の魔力に興奮してしまって』
「……」
『引かれたっ!?』
初対面で興奮したとか言われて引かないわけないだろ。
リリアナ殿下の言った通り、本当にリリアナ殿下と同じようなやつが来てしまったじゃないか。不敬だから絶対口にしないけど
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