第87話 魔力量が増やせるらしいです

「……魔力量は生まれた時から変わらないはずでは?」

「人間の体内に留まる魔力量は変わりません。けど、外部から補給し続ける方法がありますよ?」

「フリム教授はご存じですか?」

「聞いたこともない、な……固有魔法関係で、そんな話は出たことがない」


 固有魔法の第一人者であるフリム教授すら知らないとなると、通常の帝国式の魔法では考えられない方法のようだ。皇女であるリリアナ殿下が帝国に沿った魔法以外のことを知っていることがおかしいのだが、リリアナ殿下はその方法を知っているらしい。


「と言っても、万人ができる訳ではないですよ? 一定以上の魔力量を持ち、尚且つ特定の才能がないとできない方法です」

「特定の才能?」


 特定の才能という言葉が少し引っかかる。特定の魔法を持つとかならばまだわかるのだが、リリアナ殿下は少なくともその才能を持っているらしい。


「見当もつかん……平民でもできるのですか?」

「才能があればマリス、貴女でもできますよ。アガルマもマリスもそんな才能ありませんけど」


 おおう……すっげぇはっきり言った。

 事実なのだろうが、そんなにはっきりと本人に向かって言えるのは皇女だからだろうか。いや、本人の性格の問題だなこれは。


 だが、その言い方では俺にはその特定の才能があるかのようだ。リリアナ殿下と俺にしかできないこととなると、一つだけ思い当たることがある。


「成程、精霊眼と言う訳か」

「その通りです教授」


 フリム教授も俺と同じ考えに至っていた。俺とリリアナ殿下に共通している能力と言えば、精霊眼だけだ。俺の精霊眼は『千里眼』によって後付けしている能力でしかないが、リリアナ殿下の言葉的にはそれでもいけるようだ。


「魔力を見ることができる眼が、何故「精霊眼」と呼ばれているかご存じないですか?」

「いえ、知りませんけど」


 黒髪に映える青い瞳を輝かせながら、リリアナ殿下が俺に語り掛けてくるが、そもそも精霊眼なんて持って生まれる人間が少なすぎてわからないことだらけなのだ。知るはずもない。


「精霊眼は、精霊が見えるから精霊眼なんて呼ばれています」

「精霊? そのよくわからない光が、ですか?」


 瞳を輝かせながら語るリリアナ殿下の手には、いつの間にか緑色の淡い光が集まっていた。こんなものが精霊なのだろうかと、フリム教授に確認しようと目を向けると首を傾げていた。


「なにも見えない」

「見えん」

「私にも見えないな」


 フリム教授、マリス先輩、アガルマ先輩の順番でリリアナ殿下の手にある光が見えないことを教えられる。しかし、俺は『千里眼』を発動していない。リリアナ殿下のように生来持っている精霊眼ではないので、固有魔法として『千里眼』を発動しなければ見えないはずなのに、俺には見えている。


「魔力を見るという感覚を、貴方はもう身体で覚えています。だから、これくらいの精霊なら『千里眼』を使わなくても見ることができるのでしょう。因みに、私にはハッキリとした精霊の形として見えているから、ライト君も『千里眼』を使えば見えるはずですよ」


 言われてそのまま『千里眼』を発動すると、確かにリリアナ殿下の手の上で光っていたものが、小さな妖精のような形に収まっていた。


「これが、精霊?」

「そう……私は、精霊眼で精霊を見ることができる。そして、精霊は自らを見ることができる人間と契約することができる」

「じゃあ、それが」

「はい。人間が後天的に魔力量を増やす方法は、精霊をその目で見て、直接契約することです」


 そりゃあ誰も知らない訳だ。なにせ、精霊眼なんて特殊な目を持っている人間が、あまりにも少なすぎるのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る