第85話 検証、開始しました

「私は元々フリングベル伯爵家の人間でね。固有魔法というものに触れる機会が多かった」


 器具に魔力を通して電源を繋げながら、フリム教授は自分の過去を語っている。

 伯爵家となればかなりの有力貴族だが、マリス先輩の「元」伯爵家当主という言葉が気になっている。


「私は固有魔法にのめり込み、研究者になることを目指し始めたのだ。その後、色々あって爵位は返上したのだよ」

「いや、その色々が知りたかったんですが……まぁいいや」


 どんな人にも話したくないことはあるだろう。伯爵という位の高い爵位を返上するほどのなにかが、フリム教授にはあったのだということだけを知っておけば、問題ではない。


「それで、固有魔法研究のためにグラウンドを借りたいとの話だったな。マリスはなにか知らないのか?」

「何故、私に聞いたのかは知らないが……どうせ派手な魔法だろ?」

「だから私が見にきました!」

「いや、リリアナ殿下は絶対違う理由ですよね」


 アガルマ先輩もマリス先輩も、俺の固有魔法そのものに興味があるという感じだ。マリス先輩は俺と共に固有魔法の計測をしたことがあるし、アガルマ先輩に至っては魔法祭だったとはいえ、その身に俺の固有魔法を受けている。

 ただ、最後のリリアナ殿下は絶対に目的は俺個人になっている。これは自惚れではなく、事実だ。そもそも、リリアナ殿下は精霊眼を使えば俺がどんな固有魔法を使おうとするのかもわかるのだから、他の二人よりも興味は薄いだろう。


「そう言えば、どんな固有魔法を使うか聞いていなかったな」

「……あんまり大きい声で言えないんですけどね」


 クリムゾンドラゴンの固有魔法を模倣できましたなんて、大々的に言えることではないだろう。そのうちバレることになるかもしれないが、それでもできるだけ隠しておきたい気持ちもある。


「では、そろそろ始めますか」

「うむ。いつでも大丈夫だ」


 魔道器具の調整を終えたフリム教授の答えを聞いて、頭の中に『破壊の炎』の構築式を思い浮かべて展開していく。

 俺がストックとして持っている多くの固有魔法に対して、あまりにも巨大な構築式が空中に描かれていく。マリス先輩の言葉をそのまま借りるが、滅茶苦茶派手な魔法だと思う。


「こ、これは……人間の操る固有魔法ではない!?」

「人間じゃない? なら、ライト君が戦った相手から考えてクリムゾンドラゴンかしら……炎と不治の構築式みたいですし」


 リリアナ殿下は、構築式を見ただけで中身を読み取ってネタバレするのやめてください。もっと派手に紹介してみたいじゃん。


「ならクリムゾンドラゴンの『破壊の炎』と言う訳か」

「うーむ……あれは学会では固有魔法なのかどうか議論がなされていたな」

「……すまんアガルマ。私にはさっぱり違いがわからん」

「お前はもう少し固有魔法の勉強をしろ」


 リリアナ殿下がネタバレするせいで、みんなの意識が『破壊の炎』からどっかいきそうになってるじゃん。どうしてくれるんですか。


「『破壊の炎』!」

「おぉ……なんだか気合が入ってる」

「私のせい、みたいですね」


 笑って誤魔化しても許しませんよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る