第84話 学園に戻りました

「おはようございます教授」

「おぉ、ライト君」


 冒険者協会やクリムゾンドラゴンのせいでしばらく顔を出せていなかった研究室に、ようやく来ることができた。研究室の中にはフリム教授が一人でなにかの書類に目を通していた。


「アリスティナは?」

「アリスティナ君なら、なにかフリューゲル家の方で用事ができたとかで来ていないよ。ミミーナ君もアストリウス家のカーナリアス要塞が半壊した、なんて話で一度帰ってしまったし……今日は君だけだね」

「……そうですか」


 フリューゲル公爵家の用事なんて、十中八九戦争に関することだろう。アストリウス辺境伯家の話も戦争に関することだろうし、貴族が多く通っている学校は国がどう動いているかわかりやすくていいな。勿論、皮肉だが。


「それで、今日はなにか用事があってきたのかね?」

「いえ……固有魔法の研究をしようと思って」

「ほう!」


 俺が研究室を訪れた用事は、単純に固有魔法の検証をしたくなったからだ。特に、最近手に入れたばかりの『破壊の炎』は、人間の持つ固有魔法と違い、クリムゾンドラゴンという種族が持つ魔法なので色々と検証する必要がある。


「是非、私にも見せてくれ」

「はい」


 固有魔法の検証をするのに、フリム教授なしでやることは考えられない。だからこそ俺は、研究室にやってきたのだから。


 クリムゾンドラゴンの魔法である『破壊の炎』を検証するために、生徒会室に実技グラウンドを借りに来ていた。研究室で使うにはあまりにも派手過ぎる魔法なので仕方ないことなのだが、器具やメモの準備などがあるからと俺に許可申請を任せたフリム教授を、今だけ呪いたい。俺は基本的に、生徒会が苦手なのだ。


「いいでしょう。許可します」

「……ありがとうございます」


 暗に、なんでこの学園に残っているんだという視線を向けてやっても、目の前のリリアナ殿下はにっこりと微笑み、横にいるアガルマ先輩とマリス先輩が大袈裟に溜息を吐くだけだった。


「大丈夫ですよ」

「なにがですか?」

「今、貴族出身の生徒は家に帰っている人が多いので、実技グラウンドも人がいません!」

「……なにもわかってないじゃないですか」

「この人にそれ以上言っても無駄だ」


 助け舟を求めてアガルマ先輩の方へと目を向けるが、やれやれと言った様子で首を横に振られてしまった。というか、女男爵であるアガルマ先輩にもこんな扱いされてるのか……大変だな。


「……随分と人数が増えたように見えるが?」

「すいません教授」


 生徒会室に許可を取りに行って実技グラウンドに向かうと、既に諸々の器具を準備し終えているフリム教授がいた。が、俺の背後にいる三人の女子生徒を見て苦笑いを浮かべていた。


「お久しぶりです、フリム教授」

「リリアナ様、再びお会いできて光栄です」

「ここは学校ですよ? 私は生徒で、フリム教授は教授なのですから、そう扱ってください」

「う、うーむ……相変わらずのお転婆ですな」


 明らかに親しそうな雰囲気をリリアナ殿下が出しているのに、俺は首を傾げた。フリム教授はリリアナ殿下と関係があるのだろうか。


「もしかして、知らなかったのか? フリム教授はリリアナ様が幼い頃、家庭教師として固有魔法を指南していたお方なのだぞ?」

「え? 普通に知らないんですけど……」


 アガルマ先輩の言葉を聞いて驚いてしまったが、フリム教授ほどの知識量を考えれば、確かに家庭教師としてこれほど向いている人はいないだろう。ただ、普通の家庭教師ではなく、皇族の指南役となるとかなりの地位にいる人なのでは?


「……相変わらず変な所が抜けているな、お前は」

「えぇ?」


 急にマリス先輩に呆れられてなんだか納得できない。


「フリム・フリングベルグ教授……元フリングベル伯爵家の当主だ」

「え、フリム教授貴族だったんですか!?」

「む? 言ってなかったかね?」


 普通に初耳だ。

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