幕間 リードラシュ王国

「……カーナリアス要塞はクリムゾンドラゴンを退けたか」

「そのようです」


 薄暗い部屋の中で、高級そうな材質で出来ている服を身に纏う者と、その者に忠誠を誓うように片膝をついて頭を下げたまま言葉を返す者。

 ここはリードラシュ王国の王宮である。ライト・リースターが黄金都市を謳う成金都市と呼んでいた、王都ロンディーナに存在する王宮は、彼の言葉通り金色に彩られていた。


「オーウェル様、次の手はいかがいたしましょうか」


 国王オーウェル・ヴァン・ソレイユ・リーダリラは、忠臣である宰相の言葉に笑みを浮かべる。


「カーナリアス要塞がいくら堅牢強固と言えど、クリムゾンドラゴンを相手にして無傷とはいくまい。たとえ要塞が無傷だったとして、中で戦う兵士はどうだ? 今しかないのだ。あの忌々しい要塞を落とすチャンスは」


 歴史として、リードラシュ王国はローズ帝国よりも先にできている。だが、ウィストリア神聖王国とローズ帝国初代皇帝ロア1世によって王国は未だに大陸を分断する山脈を超えられたことがない。

 リードラシュ王国にとって、カーナリアス要塞とは忌々しい帝国の守りの要であり、未だ自分たちが超えることのできない高すぎる壁でもある。しかし、偶然山脈に住んでいたクリムゾンドラゴンをけしかけることに成功した結果、カーナリアス要塞を龍種という最強の攻城兵器で叩くことができた。ならば次に行うことなど、一つしかないだろう。


「では、宣戦布告の準備を?」

「あぁ……軍務卿にも伝えておけ。これより、我がリードラシュ王国はローズ帝国を攻め滅ぼすとな」

「かしこまりました」


 頭を下げて部屋から出て行った宰相を見送りながら、国王オーウェルは溜息を一つ吐く。けしかけたクリムゾンドラゴンがカーナリアス要塞を守るリンドールアストリウスに撃破されることは想定通りだったが、まさか要塞が残っているとは思っていなかったのだ。


「使えん龍種だったな。全くもって貧弱よ」

「そうですね」


 今まで一度も突破できなかった自国のことを棚に上げて、オーウェルが悪態を吐いていると、そこにこの世のものとは思えないほど美しい女性が部屋に入ってきた。オーウェルは彼女の姿を見ると、周囲に誰もいないことを確認してから相手の腰に手を伸ばした。


「ミスティーナ……やはりお前は美しい。お前のためならば、私はどんなものでも手に入れてみせるぞ」

「あら嬉しい……王妃としてこれほど幸福なことはありませんわ」


 リードラシュ王国の国王オーウェルの妻、王妃ミスティーナは妖艶な雰囲気を纏ったままオーウェルの胸にしな垂れかかった。


「では、この私に愛をくださいませ」

「おぉ、おおおおお!」


 まるで美しい花に吸い寄せられるように、オーウェルは腕の中のミスティーナをきつく抱きしめた。この女は絶対に誰にも渡さないと、周囲に誰もいないことを知っているのに幾度も周りを確認しながら抱きしめる。

 王に求められていることを理解しているミスティーナは、わざと情欲を煽るように腰をくねらせ、服をはだけさせていく。それだけで、かつて賢王とまで呼ばれたオーウェルは、簡単に女に溺れていった。

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