第82話 解決です

 結局、最初の奇襲を防げなかったことで、カーナリアス要塞は半壊してしまったが、中の住人は事前に避難していたので人的被害は最小限に抑えられた。王国を睨みつける堅牢な要塞としての機能は、殆ど失ってしまったかもしれないが、龍種であるクリムゾンドラゴンを討伐できたのは国にとっても大きな功績だ。


「ライト君、ここにいたのか」

「辺境伯? なにか用事でもありましたか?」


 崩れた壁の上から、草原で絶命しているクリムゾンドラゴンの死体を眺めていたら、背後からアストリウス辺境伯がやってきた。


「見ての通り、カーナリアス要塞は半壊状態。君の推測通り、カーナリアス要塞を崩すのがリードラシュ王国の策だったならば、半分は成功しているだろうな」

「それに、こちらの戦力を把握しておくためでもあったのかと」

「うむ……クリムゾンドラゴンをけしかけるくらいだからな」


 正直、まったく当たっていて欲しくない予想なのだが、リードラシュ王国がカーナリアス要塞に龍種をけしかける理由などそれくらいしか思いつかない。小競り合いにしては規模が大きすぎるので、帝国は見逃せない。結局、どう転んでも戦争に発展しそうな話だ。


「戦争になったら、君はどちらにつく?」

「……それは、俺がリースター子爵家に戻るかどうかを聞いているのですか?」

「そうだ」


 帝国側としては重要な話なのだろう。帝国冒険者協会の5等級冒険者となっている俺が、生まれ故郷だからとリードラシュ王国側に付けば大問題。推薦したアストリウス辺境伯にも飛び火するだろう。


「私としては、戻るのも一つの選択だと思う」

「辺境伯の言っていいことではありませんね」

「確かにな。だが、私は本気だ……このままいけば君は生まれ故郷の同胞と殺し合うことになるのだぞ」


 既に5等級冒険者になっているのだから、戦争と言うことになれば確かに俺は駆り出されるだろう。冒険者協会が国が運営する組織である以上、避けられない事実だ。そして、弱肉強食の帝国において兵士が学生かどうかは関係ない。力あるものは戦い、力なきものは逃げ惑うのが帝国の真理なのだから。

 辺境伯は、俺の心を案じている。俺の実力を知っているからこそ、自分の手で同胞を殺すことになるのを案じている。だが、初めから俺に迷いなどない。


「俺は、帝国魔法学園所属、帝国冒険者協会5等級冒険者ライト・リースターです。既にリースター子爵家からは追放されました。向こうに残してきた後悔は、ありません」

「…………そうか」


 辺境伯には俺の言葉が強がりに聞こえただろうか。だが、俺に迷いがないのは本当のことだ。戦争になればきっと俺は、リードラシュ王国の同級生をこの手で殺すことになる。だが、帝国で出会った仲間を守る為ならば、その程度のことで折れている暇はない。

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