第81話 クリムゾンドラゴン4
クリムゾンドラゴンと俺が放った『破壊の炎』は、拮抗した状態のまま周囲を焼いていく。このまま続ければ、魔法の爆発によって甚大な被害を周囲に出すだけで、クリムゾンドラゴンは倒せないだろう。ここから押し込むにはもう一手必要だ。
「龍種に真正面から魔力量で勝負できるとは思ってない。少し狡い手を使わせてもらうが、恨むなよ! こいつは決闘じゃない!」
俺は拮抗した状態の火球に向かって固有魔法を幾つか発動させる。クリムゾンドラゴンが放ったほうの火球を『停止』させ、俺の放った火球には『交換』を発動する。
拮抗していた火球を入れ替え、俺の放った『破壊の炎』がそのままクリムゾンドラゴンの顔に直撃する。
「グォォッ!?」
「はっ! お前も『破壊の炎』が痛いらしいな!」
「旦那が突破したぞ! 続け!」
「バリスタ一斉発射だ!」
クリムゾンドラゴンが『破壊の炎』を受けて仰け反った隙に、傭兵団がそれぞれの武器を手に走り出し、辺境伯の指示によって要塞からバリスタと矢が大量に降り注ぐ。
「なるべくひと纏まりだと嬉しかったんだけど、そうも言ってられないか……『加速』『強化』『転移』!」
雨のように降り注ぐ矢とバリスタの中を走る傭兵たちを援護する為に、幾つかの固有魔法を発動する。『加速』させれば矢も避けられるだろう。『強化』した武器を使えば容易くドラゴンの鱗を切り裂ける。『転移』で強力な固有魔法の準備をしていた魔法師を懐に飛ばせば、避けられることもない。
俺がクリムゾンドラゴンが放った『破壊の炎』を無力化した時点で、既に決着はついていたのだ。
「お、のれ、おのれ、おのれ下等種族どもがァ!」
「……残念、お前の負けだ」
傭兵と騎士から攻撃を受けながらも立ち上がる、クリムゾンドラゴンの生命力は驚異的だが、今更なにかが変ることはない。
停止させていた『破壊の炎』を一つの矢と位置を『交換』して、魔力の矢が貫いた傷口へ叩き込んだ。名前の通り全てを破壊して直せなくしてしまう『破壊の炎』を受ければ、いかに強靭な生命力を持つクリムゾンドラゴンもたまったものではないだろう。
「がァ!?」
「終わりだな」
今、クリムゾンドラゴンは自分の理解を超える攻撃を受けている。俺が固有魔法を複数使い、挙句の果てには自分が持つ絶対の能力である『破壊の炎』を使ってきた。知性があるからこそ混乱する。ただ暴れるだけのモンスターだったならば、俺の挑発にも簡単に乗らず、混乱することもなくただ本能のまま敵を倒せたのだろう。
「馬鹿、なッ……こんな、下等種族ども、に……」
「そうやって傲慢にしているから死んだのさ。お前の敗因は、龍種としての無駄なプライドだ」
人間が見上げるほどの体躯を持つクリムゾンドラゴンは、力なく地面に倒れ込んだ。
おとぎ話にすら出てくる龍種の討伐に、成功した瞬間だった。
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