第80話 クリムゾンドラゴン3
地に堕ちたクリムゾンドラゴンは、口から爆炎の代わりに血を吐き出した。
「グゥッ!? おのれェ!」
「人間を舐め過ぎだ。固有魔法はお前の方が強力かもしれないが、人間が全て劣っていると思うなよ」
地上からクリムゾンドラゴンを貫いたのは、傭兵の一人が持っていた固有魔法『魔力の弓』から放たれたものである。本来ならばクリムゾンドラゴンを貫けるほどの威力を出すには、かなりの魔力量が必要になってしまうが、傭兵団が全員で魔力を込めることでクリムゾンドラゴンを撃ち堕とす勢いの魔法とした。
この世界の空を制していると言っても過言ではない龍種。現在、世界に龍種は10種ほど確認されていると言われているが、その中でもクリムゾンドラゴンは飛行能力に秀でている訳ではない。飛行能力に特化しているスカイドラゴンであれば、あの程度の矢は避けられたかもしれないが、クリムゾンドラゴンには不可能だ。
「我が縄張りを荒らした西の下等種族共が!」
「……西の下等種族?」
「全員、ここで消し去ってくれる!」
クリムゾンドラゴンの口から出た「西の下等種族」という言葉はおかしい。クリムゾンドラゴンの口振りからすれば、カーナリアス要塞が組み込まれている山脈辺りがこのクリムゾンドラゴンの縄張りになるのだろうが、それを荒らしたのが西の下等種族、つまり帝国に属する人間であると主張している。しかし、帝国はクリムゾンドラゴンの住処が近くにあることすら知らず、縄張り荒らした報復であると襲い掛かってきたクリムゾンドラゴンを見ることで、この山脈に住んでいることを知ったのだ。
当初の予測通り、この事件には裏で手を引いているリードラシュ王国の人間がいる。恐らく、帝国の人間であることを偽ってクリムゾンドラゴンを襲ったのだろう。
リードラシュ王国の目的がなんであれ、魔力の痕跡から考えて単独でクリムゾンドラゴンに喧嘩を売り、生き残るものがリードラシュ王国にはいる。そして、それをわざわざカーナリアス要塞へとぶつけている。警戒して損はないだろう。
「一回下がれ!」
「あぁ……そうさせてもらおう、と思ったけどな!」
「貴様だけは逃がさんぞ!」
アストリウス辺境伯の騎士たちが一旦下がれと言ってくれたが、どうやらクリムゾンドラゴンは俺の挑発が相当頭に来ているらしい。下がらせるつもりはないらしいが、そうなればこちらも下がる理由がない。なんなら、もう『破壊の炎』は構築式までほぼほぼ完成している。
「必要なのは溜める時間と、膨大な魔力量だけだ」
「消えろっ!」
クリムゾンドラゴンは龍種の中でも飛行能力が低く、固有魔法は強力だが発生が遅く膨大な魔力を必要とする。現在発見されている龍種の中でも比較的弱い部類に入るのだが、それでも人間からは考えられない程の魔力を持っている。しかし、規格外の魔力量と言うのなら俺も同じだ。自慢するようで正直気が引けるが、クリムゾンドラゴンの『破壊の炎』も何発か放てる程度の魔力は持っている。
「お前の炎、お前自身で受けてみろ!」
「馬鹿なッ!?」
生意気な存在である俺を消すために大量の魔力を消耗して放たれた『破壊の炎』に対して、俺も『模倣』を使って『破壊の炎』を放つ。そっくり同じ『破壊の炎』を使っても魔力量で押されてしまうだけなので、魔法そのものを『強化』して火球を『圧縮』したうえで、放った『破壊の炎』の火球を『加速』させる。
クリムゾンドラゴンが放った炎と、俺の放った炎が衝突した。肌が焼けるような温度を感じるが、これさえ通してしまえば俺の勝ちだ。遠慮はいらない!
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