第79話 クリムゾンドラゴン2

「逃げてばかりかッ!? 下等種族らしい小賢しさだな!」


 クリムゾンドラゴンと相対して、俺がヘイトをひたすら稼ぎながらカーナリアス要塞の防衛設備と前線の優秀な連中で傷を与える。かなり無謀な作戦に思えたが、なんてことはなく俺がひたすら迫りくる『破壊の炎』を避けているだけで倒せそうだ。

 少しの間戦ってわかったこととして、まずクリムゾンドラゴンは馬鹿である、としか言えない。知性を持ち、言葉を操り、とびっきり強力な固有魔法を放つことができるというのに、クリムゾンドラゴンは信じられないほど頭が悪い。なにせ、少し挑発するだけで、延々と俺を追いかけてくれるのだから。


「……案外遅いな、クリムゾンドラゴン」

「ほざけッ!」


 一言、クリムゾンドラゴンの頭より高い空中で挑発すれば、簡単に引っかかる。確かに、驚異的な硬さを持つ鱗で身体を守っているクリムゾンドラゴンは、殆どの攻撃を気にしなくて済むだろうが、龍種討伐のために集まった精鋭メンバーがその程度の守りを突破できない訳がない。クリムゾンドラゴンは、俺を追いかけながらも傷を負っている。それでも、龍種としてのプライドなのか俺のことを放っておけないらしい。やはり馬鹿である。


「ガァッ!」

「おっと……どうした、疲れたか?」

「その程度を避けたくらいで調子に乗るなッ!」


 避ける方向を間違えれば、カーナリアス要塞や下で魔法の準備をしている兵士たちに『破壊の炎』が向かってしまう。空を飛びながら巻き込まない角度で炎を避けて、少しずつクリムゾンドラゴンを挑発する。正直、結構神経は削るが魔力に問題はない、と思う。


「貴様ッ!? その目を止めろ! この私を下に見るなァ!」

「プライドが高すぎると言うのも考え物だな。だが、お前の『破壊の炎』は発生が遅すぎるぞ」


 放ってしまえば、クリムゾンドラゴンが飛行する速度を遥かに超える速さで飛ぶ『破壊の炎』だが、放つまでの速度が遅すぎる。『千里眼』で構築式を解明している最中だが、かなり複雑で人間の持つ固有魔法とは比べものにならない大きさをしているのがわかる。それだけ大きければ、魔力を通すにも時間がかかる。実際の戦闘で使い物になるかと言えば、微妙だ。当然、その分放った後の速度と威力は充分だけどな。


 どれだけ強力な魔法であろうとも、発生が遅く着弾しなければ意味はない。

 構築式を用意するのを『千里眼』で見て、放つ直前に『未来視』で軌道を確認して、軌道修正が不可能なタイミングで飛行速度を『加速』して『翼』つかって避ける。これだけで終わる。長射程なのでどの方向に撃たせるのかも考えながらやっているが、周囲には山が多いのでそこまで問題にはならないだろう。


「お前の命を刈り取るのは俺じゃなくていい。俺が自由に空を飛んでいるだけで、お前は勝手に死ぬ」

「黙れッ! 私は龍種だぞ!? 貴様ら下等種族なんぞに、私の命を刈り取ることなどできん!」

「不死でもないのに傲慢だな。だからこそお前は死ぬ……いや、堕ちる」


 飛行しながら挑発として口にした言葉に、クリムゾンドラゴンは過剰に反応してくる。だが、俺の発言は挑発の為に口から出した嘘ではなく、発動している『未来視』で見えている未来の話でしかない。俺には、既にクリムゾンドラゴンが地に堕ちる未来が見えているのだ。


 目障りな俺を殺そうと力を集約して『破壊の炎』を放とうとしていたクリムゾンドラゴンは、下から飛んできた巨大な魔力の矢に胴体を貫かれ、口に溜めていた『破壊の炎』を暴発させて地に堕ちていった。

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