第78話 クリムゾンドラゴン1

「これ以上は耐えられんっ!」


 なんとか食い止めていた『破壊の炎』が、俺の障壁を破って背後に通り抜けていく。

 少し後に聞こえてきた爆発音で振り返ると、絶対不落であったカーナリアス要塞が半壊していた。それも、魔法の一発である。

 人間の想像を遥かに超える現象を、口から簡単に放つことができるドラゴンという種族に、畏怖を覚えてしまう。そして、矮小な人間が『破壊の炎』を食い止めている間に、クリムゾンドラゴンは既にそこにいた。


「グォォォォォォッッ!」

「おいおい……」


 見上げるような体躯を持ち、雄大に空を舞う龍種クリムゾンドラゴン。カーナリアス要塞を一撃で半壊させた魔法を放つ龍は、ゆっくりと瞳を動かして俺の姿を映した。


「おっと」


 無動作で放たれた尻尾による一撃を『加速』することで避けた俺は、背中に『翼』を現出させて空を舞う。この空は龍種だけが支配するものではない。俺の中で空を踊るように舞っている存在は、いつだってアリスティナ・フリューゲルだ。


「生意気な。人間如きが私を上から見下ろすか」

「え、喋れたんだ」

「不敬であるぞ!」


 突然、腹に響くような重低音の声が聞こえてきたと思ったら、喋っているのは目の前のクリムゾンドラゴンだった。まさか言葉が通じているとは全く思っていなかったので、つい反射的に返してしまった。

 どうやら、クリムゾンドラゴンにとって上から見下ろされるのはよほどの侮辱になるのか、容赦なく口から『破壊の炎』を放つ。今度は火球の形ではなく、ブレスと形容できる噴射型の炎だったが、現在『加速』を併用しているので俺の飛行スピードはその程度では捉えられない。


「ふんッ! 貴様はそれなりにやれるようだが、そこの要塞にいる連中はどうだろうな!」

「あら、バレちまった」


 クリムゾンドラゴンにとって見下ろすことが侮辱になるのなら、俺がそれを繰り返すことで動きを単調にさせ、ついでにカーナリアス要塞にいる兵士たちが準備する時間を与えようとしていたのだが、クリムゾンドラゴンにはすぐにバレてしまった。


「このようなぬるい炎で破壊とは。笑わせるな」

「ぬゥッ!?」


 しかし、既に必要な時間は稼げている。

 クリムゾンドラゴンは俺が敵の中で最も強く、時間稼ぎに出てきた存在であると理解していたが、カーナリアス要塞にはリンドール・アストリウス辺境伯がいる。彼の持つ『圧縮』の固有魔法は、ドラゴンの息吹程度ならば簡単に抑え込んでしまう。

 放たれた炎を、要塞のアストリウス辺境伯に消されてクリムゾンドラゴンは怒りに身を任せて魔力を滾らせる。


「調子に乗るなよ!」

「どっちが!」


 再び息を吸い込んで『破壊の炎』を口から放とうとするドラゴンに対して、俺を含めて複数人が魔法をぶつける。俺と共にドラゴン討伐の最前線に立つ実力のある傭兵と騎士だ。


「さぁ、先制でいいのを貰ったが、五分の条件ならどうなるかな?」

「ほざけ! この劣等種族がッ!」


 クリムゾンドラゴンは怒りを吐き出すように『破壊の炎』を滾らせる。

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