第77話 急襲です

「ライト君、クリムゾンドラゴンがすぐに来ると言うのは……」

「事実です。もう一時間も猶予があるかどうか」

「そうか……だが、準備が少し不足する程度ならば問題ない。今、急いで防衛設備を起動させている」


 アストリウス辺境伯はクリムゾンドラゴン討伐に自信があるようだが、正直『破壊の炎』がどれくらい強力か分からない現状では、少しも安心できる要素はない。


「俺は前に出ます。クリムゾンドラゴンは要塞には近づけませんので」

「頼んだ」


 元々、アストリウス辺境伯はクリムゾンドラゴンと一対一で戦えるような冒険者を望んだのだろう。その条件が5等級以上と言うのは些か大雑把だと思う。ただ、正直クリムゾンドラゴン相手に5等級では相手になるかどうか、微妙なラインだ。そういう意味では、多くの固有魔法が使える俺は適任だろう。


 辺境伯と別れて、要塞の外に飛び出し平原の地平線へと視線を向ければ、小さな影が見える。途轍もないスピードで近づいてくるクリムゾンドラゴンで間違いないだろう。


「流石に、この距離で当たる魔法はないか」


 俺が『千里眼』を発動させて正確な距離を測るが、俺の手札では今の距離から攻撃する手段は存在しない。クリムゾンドラゴンが近寄ってくるまで、とりあえず待機しておこう。

 そういう考えが、死に繋がる。


「マジか」


 肉眼では黒い粒のようにしか見えない距離にいるクリムゾンドラゴンが、口を大きく開いて赤黒い炎の球を吐き出したのだ。『千里眼』で見ていなければ気が付くこともなかったであろうその攻撃は、クリムゾンドラゴンが飛行する速度と比べものにならないスピードで要塞に向かっていた。


「そこのバリスタ準備してる連中! 全員そこから降りろっ!」

「え、な、なんで?」

「いいから早くしろ! ちっ!」


 赤黒い火球が狙う先は要塞の壁である。

 俺の言葉の意味が正しく理解できない兵士たちは、ただ困惑して手を止めていた。こうなったら俺が火球と要塞の間に入るしかない。


「『障壁』『強化』『圧縮』『加重』!」


 間に入り込んだ状態で『強化』した『障壁』を『圧縮』して生み出し、自分の身体に『加重』をかけて地面に踏ん張る。


「ふっ! すっげぇ勢いだっ!」

「うわぁっ!?」

「全員退避しろっ!」

「急げっ! 旦那が耐えてるうちに早くしろ!」


 飛来してきた火球は、見たこともないほど濃密な魔力を纏っていた。『千里眼』によって疑似的な精霊眼を宿している俺は、火球が当たれば人どころか要塞まで消し飛びそうな威力をしていることがわかってしまう。実際、強化圧縮した障壁の表層を、既に破壊しそうになっている。


「間違いないっ! これが『破壊の炎』だ!」


 ここまでの速度でこれほどの威力を発揮できる魔法が、それ以外にあってたまるか!

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