第76話 緊急事態です
「どうだい旦那」
「んー……本当に少し前になにかあったみたいですね」
巣に渦巻く魔力の残滓から、ごく最近にクリムゾンドラゴンが戦闘を行った気配を感じた。そこまで大規模な戦闘ではなさそうだが、魔法を放った方角が問題になりそうだ。
「恐らく、クリムゾンドラゴンに手を出した奴がいますね」
「それで、クリムゾンドラゴンがカーナリアス要塞まで?」
「誘導されてきた、といった感じですかね」
一連の動きに作為的ななにかを感じるとまでは言わないが、クリムゾンドラゴンの伝承から考えればカーナリアス要塞を襲うのはおかしな話である。
クリムゾンドラゴンという種は『破壊の炎』を操る強力なドラゴンではあるが、極度の引きこもり体質なのだ。伝承で討伐されているクリムゾンドラゴンも、当時の国王が金に物を言わせて作った豪華な城を気に入って住み着いたせいで討伐されたらしい。カーナリアス要塞を新しい巣として気に入ったとすれば辻褄が合わなくもないが、明らかに不自然な点が幾つか存在する。
「……見つけた」
「クリムゾンドラゴンを見つけたのか!?」
「いえ、クリムゾンドラゴンを巣から追いやった奴の魔力の残滓です」
注意深くクリムゾンドラゴンの巣を観察すれば、巣の周辺にはドス黒い呪いの魔力が渦巻いている。この魔力のせいで、クリムゾンドラゴンは巣を追われたのだろう。そして、このドス黒い魔力がどこから来ているのかもわかってしまった。
「リードラシュ王国、か」
魔力がやってきた方角にあるのはリードラシュ王国の王都、ロンディーナである。黄金都市を謳う成金都市から、黒い魔力はやってきている。となると、考えられるのは一つ。
「あくまで推測ですが、完成してから一度も破れなかったカーナリアス要塞を崩すために、リードラシュ王国がクリムゾンドラゴンをけしかけたのではないかと」
「なにっ!?」
「旦那それは大問題じゃねぇか!?」
ただのクリムゾンドラゴン退治だけなら楽だったのだが、ここに国家の陰謀が挟まっているのではないかという疑惑が生まれてしまった。そうなれば、あくまで個人戦力である俺の範疇を超える。
「問題だらけですよ。アストリウス辺境伯にこのことを」
「わ、わかった!」
騎士はすぐさまに辺境伯の元へと向かって行った。
まさか国家戦争の陰謀に巻き込まれることになるとは思わなかったが、今は消えたクリムゾンドラゴンを追う方が先だ。なにせ、俺の推測が正しいのならばまず間違いなくクリムゾンドラゴンはカーナリアス要塞の破壊を狙う。
「……やばい」
「旦那?」
「もうかなり近い距離まで来てるぞ、クリムゾンドラゴン」
大急ぎでクリムゾンドラゴンの魔力を追っていたが、辿り着いた先は空を飛ぶ大きな深紅の龍。俺が立っているカーナリアス要塞から数十キロ先の地点を飛んでいる。
「アストリウス辺境伯に伝えろ。後、一時間もしないうちにクリムゾンドラゴンが来ると」
「りょ、了解だっ!」
傭兵に急いで指示だけだし、俺は『千里眼』を閉じる。
なんてこった。かなり面倒なことになってきたぞ。
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