第74話 宴会です

「うわははははは! 飲め飲めぇい!」


 俺との決闘で左手を粉砕されたリンドール・アストリウス辺境伯は、現在宴会の中心で元気に酒を持って騒いでいる。俺は『反転』を使った範囲が大きかったせいで、底なしだと思ってた魔力の半分ぐらいまで削れているのに、元気に騒ぎまわっているおっさんはまだまだできそうである。


 決闘が終わったことで俺の存在が認められ、歓迎会とは名ばかりの宴会が始まっていた。

 クリムゾンドラゴンが迫っているのに暢気な連中だと思ったが、どうやらクリムゾンドラゴンは現在、山脈の方へと帰っているそうでしばらくはこないらしい。

 それをもっと早く言え。


「よぉ兄ちゃん! 見事なもんだったぜ? よかったら、学園卒業した後に俺の傭兵団に来ねぇか? 次期団長としてよ!」

「ずりぃぞ!? 俺のところも考えておいてくれよ!」

「いやいや、彼は将来帝国の未来を担う若者。ここは我々と共にこのカーナリアス要塞を守ろうではないか!」

「は、はぁ?」


 酔っているのかどうかもわからない男連中に囲まれて、何故か勧誘され続けている現状に呆れ果てている。というかお前ら勝手に人の将来決めようとするな。


「落ち着けお前たち」

「あ、アストリウス辺境伯」

「ライト・リースター君の将来はもうほぼ決まっているんだ」


 なにそれ聞いてない。


「彼は、将来的にリリアナ皇女殿下の騎士となるのだ!」

「おぉ!?」

「そ、そうなのか……なら、カーナリアス要塞の騎士はできないな」

「へぇ……大層な権力者になりそうだな!」


 いや、本当になにそれ聞いてない。というか最後の傭兵、お前リリアナ皇女殿下の騎士が隠語だと気が付きやがったな。

 実際、今のまま生きてると本当にリリアナ皇女殿下の騎士(笑)にされそうになってるんだが、誰か止めたりしないのかよ。


 酒を飲みながらゲラゲラ笑っている者に囲まれて、俺はなんだか気が滅入ってくる。


「まぁ次期皇帝は長男のロア・ローゼリア様が継ぐだろうからな」

「そうなるとロア6世か……あのお人好し皇子様なら、国も安泰だろうな」


 お人好し皇子様はもはや罵倒では?

 というか、そうなるとリリアナ皇女殿下は大公になるのか。え、俺が大公の騎士(笑)とかなんの冗談ですか。俺、もう貴族社会はごめんなんですが。


「安心したまえライト君。殿下の婿になれなかった時は、我が娘ミミーナの婿として迎え入れようではないか。私は、君がアストリウス辺境伯を継いでくれるのなら大賛成だとも」

「おぉ! それはいいですね!」


 いや良くないだろ。というか騎士(笑)とか言って隠語にしてたのに、はっきりと婿とか言いやがったなこのおっさん。そしてこんな戦争の最前線になりそうな場所の領主とか死んでも嫌です。


 宴会が無礼講の雰囲気のまま続いている中、俺は一人だけおっさんたちに絡まれ続けていた。何故だ。

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