第71話 リンドール・アストリウス辺境伯2

 まず、リンドール・アストリウスとの戦闘でもっとも気を付けなければならないのは、その圧倒的な速度だ。幾度か『千里眼』や『強化』した動体視力で辺境伯の動きを見たが、固有魔法を発動している気配はない。つまり、彼は身体強化だけで戦っている。


 俺が高速で動く相手を目で捉える方法は多くない。固有魔法で『千里眼』か『未来視』を使うか、持っている動体視力を『強化』して目で追うというものだ。


「……やるしかないな」


 地面を蹴りながら高速移動を繰り返す辺境伯を前に、とりあえず『千里眼』を発動する。一気に視界が広がるような感覚の中、娘であるミミーナ・アストリウスに似た淡い桃色の髪を揺らしながら戦場を走る辺境伯を捉えた。


「ほう『風の刃』か。しかし、私には届かないな!」

「おいおい……更に加速しやがったな」


 相手の位置を『千里眼』で捉えて放ったはずの『風の刃』は、掠ることもせずになにもない空間を通り過ぎていった。俺が魔法を放った瞬間に、更に加速したのだ。あまりにも人間的ではない速度は、俺の目でも追い切れるか微妙なライン。


「『未来視』も使うしかないな」


 複雑な構築式をしている『未来視』は、強力な反面消費魔力が多くなってしまう。発動するにもかなり限定的な条件を加える必要があるし、見えても2秒程度先の動きだけなので、決して無敵の能力とは言えない。ただし、圧倒的な視界範囲と捉える能力のある『千里眼』と組めば無類の強さを発揮する。


 超高速で動き回る辺境伯を『千里眼』で捉え、更に『未来視』で動きを予知する。同時に、予知した進行ルート上へ向かって『転移』して相手に『加重』をかける。


「ぬぅっ!?」

「動きが止まりましたね!」

「やる……だがっ!」


 突然、身体を重くされて動きが止まった辺境伯へ『強化』と『加速』を乗せた『風の刃』を放つが、彼がにやりと笑ったまま発動した固有魔法によってかき消された。


「消した? いや、弾いた? なんだ、なんの能力だ?」

「それを調べるのが、君の戦いだろう?」


 放ったはずの『風の刃』が消された。言葉にすれば簡単なことだが、辺境伯の放った固有魔法は全く異質なもの、という感想だ。弾いたのなら周囲に被害が出ているし、消したのならそれ相応の構築式が見える。だが、簡単な構築式で攻撃を消すとなると、どうやっているのか見当がつかない。


「確かめてみるしかない」

「さぁ、来い!」


 この戦い、俺は見に回って都合のいいタイミングで攻撃しようと思っていたが、どうやらそうもいかないらしい。

 リンドール・アストリウスの固有魔法を把握し、それを無力化することでしか俺の勝ちは生まれないだろう。だが、相手が使っているのが固有魔法ならば、俺の方が有利な状況だ。

 固有魔法を使う相手に、負ける理由などない。

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