第70話 リンドール・アストリウス辺境伯1
クリムゾンドラゴンと戦う予定の平原で、俺は帝国随一の実力者であるリンドール・アストリウス辺境伯と相対していた。観客として多くの傭兵たちとアストリウス辺境伯の私兵がいる。その時点で、これが俺の力を傭兵や私兵に認めさせるための決闘だと理解した。
「君とは一度戦ってみたかったんだ……遠慮なくいかせてもらおう!」
「……やっぱあの人、戦いたいだけだわ」
クリムゾンドラゴンとの戦闘では、辺境伯本人が出陣する訳にはいかない。クリムゾンドラゴンとの戦いを指揮する者が必要だし、おびき寄せる平原はカーナリアス要塞から帝国側だが、王国側からいつ王国軍が戦争を仕掛けに来るかわからない。王国側は山道になっているので、王国軍が攻めてきてもすぐにわかるようになっているが、それでもカーナリアス要塞本来の役目を、辺境伯が放置することはできない。
その結果、帝国随一の武人でもあるアストリウス辺境伯は前線に出られない不満が出てしまう。それを、色々理由をつけて解消しようというのだろう。と言っても、傭兵や私兵が俺のことを甘く見ていて、重要な局面でヘマして壊滅なんてことにならないために、俺の実力を示す行為は必要ではある。
「では、行くぞ!」
「速っ!?」
一度の踏み込みで地面を抉りながら飛んできた辺境伯に、反応が遅れた。
帝国魔法祭で戦った生徒会副会長のアガルマ・リュドマクエルが、同じように身体能力強化の魔法を使って近接戦を仕掛けてくる戦闘スタイルだった。しかし、辺境伯の速度は副会長の遥かに上を行っている。
咄嗟に展開した『障壁』でなんとか防いだが、笑顔を見せるだけで相手に動揺はない。
「いいぞ……流石の反応速度。今の動きは咄嗟のものだった」
「……バレてますね」
辺境伯は俺が帝国魔法祭でどんな固有魔法を使っていたのかを大体理解している。今の防御が『未来視』によって防がれたものではないことを知って、能力頼りの戦い方ではないことを認識したのだろう。俺としては『障壁』も能力なので、能力頼りだと思うのだが。
「まだまだ、行くぞ。次も防いで見せろ!」
「んぐっ!?」
今度は動体視力を『強化』することで動きを見切り、タイミングよく『障壁』を発動させたが、蹴りの一発で破壊されてしまった。
「遅い!」
「やべっ!?」
ただの蹴りで壁を破られたことでちょっと動揺したが、その隙に辺境伯が目の前から消えた。マジで速すぎて消えたように見える。身体能力化け物かよ。
とりあえず上に飛んで辺境伯の位置を把握しようとしたが、足の先を掠めるように辺境伯の腕が通り過ぎていった。
「やるっ!」
「今のは本当に偶然です、よっ!」
状況把握のために上に飛ぶのが一瞬でも遅れていたら、俺は首に辺境伯のラリアットを受けて、下手すると戦闘不能になっていた。それほど、辺境伯の攻撃力は並外れている。
この戦いはただ辺境伯を打倒すればいいというものではない。俺の実力を、傭兵や私兵に見せつけなくてはならない。
ならば絡め手は無しで真っ向勝負しかない。
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