第69話 手合わせします

 クリムゾンドラゴンと言えば、帝国や王国の童話にすら出てくるほど有名な龍種であり、その長大な寿命は人間では正確に把握できないとされている。そして、この世界の強力なモンスターの共通点でもある非常に強力な固有魔法を持っている。


「クリムゾンドラゴンの固有魔法は『破壊の炎』だ」

「確か……炎で破壊、焼いたものが修復しないという呪いに近い攻撃、でしたか」

「その通りだ。クリムゾンドラゴンは帝国が建国する遥か前から存在しているが、この付近に生きているとは思わなかった」


 人間が個それぞれに固有魔法の違いが存在するが、クリムゾンドラゴンは種族で共通した固有魔法を持っている。そのため、クリムゾンドラゴンの持つ『破壊の炎』が果たして固有魔法なのか、種族が持つ特殊な能力なのか議論が行われたこともあるようだが、結論は出ていない。便宜上、固有魔法と言っているだけで、クリムゾンドラゴンの持つ力が固有魔法なのかどうかは誰にもわからない。つまり、俺の『模倣』で再現できるか、不透明な状況だ。


 クリムゾンドラゴンの力を考えると、5等級以上の冒険者は欲しいかもしれないが、上位等級冒険者一人ではできることなど限られている。


「ん? 安心したまえ。しっかりと我がアストリウスの私兵も出す。それに、流れの傭兵もかなり雇っているから、全体の数としては一万に届くかもしれん」

「それは……まぁ、凄い数ですね」


 前世の戦争の価値観で考えればかなり数が少ないが、この文明レベルでの一万人はかなりの大人数であるし、それを金で雇った傭兵で集めるのはそれなりに出費も嵩んでいるだろう。

 辺境伯がどれだけクリムゾンドラゴンを警戒しているのかは、よく分かった。


「と、言うことでだが……君にはクリムゾンドラゴンとの戦いで主戦力になってもらいたい」

「具体的には?」

「我が私兵を使って敵を有利な地形、つまりこのカーナリアス要塞まで引き込む。鉄壁の要塞を使わない手はない。そして、要塞前の平原で私の騎士たちと君、実力のある傭兵団でクリムゾンドラゴンを叩いてもらい、残った連中で要塞の兵器を使って援護する」


 クリムゾンドラゴンの飛翔能力を考えれば、カーナリアス要塞の城壁などあってないようなものだが、主戦力が要塞の外でクリムゾンドラゴンと戦っている状況ならば、バリスタやら投石器なんかも使いやすい。前線で戦っている者たちにその程度が避けられないはずがないという前提ではあるが、クリムゾンドラゴンを相手にするのならば仕方のないことだろう。


「その為の前段階として、私と君で決闘をしたい」

「はい……はい?」


 辺境伯がにっこりと笑顔を浮かべたまま突然意味の分からないことを言い始めた。ついに狂ったかこのおっさん。

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