第67話 冒険者活動してみます

 将来のことを考え込んでいた俺は、結局行動して色々な物を見て体験することにした。将来的に帝国の宮仕えにでもなってぬくぬく平和を満喫するのか、帝国軍人にでもなって戦場を走るのか、冒険者の頂を目指して戦い続けるのか。どれを選ぶにしてもまだ時間はある。ならば少しずつ考えていけばいい。

 リリアナ殿下は俺が帝国に貢献する人材であると確信しているが、俺は迷い続けている。


 俺が将来の選択肢を考えて一番体験がし易そうだと思ったのは、冒険者だ。なにせ、俺は既に冒険者としての資格を持っているのだから、冒険者協会から依頼を少し受けるだけで簡単に冒険者の体験ができる。もっとも、これは体験ではなく既に正式な仕事なのだが。


「ん?」

「気になりますか?」


 俺が掲示板に貼られている依頼をいくつか見ていた中で、貴族が使う高そうな紙に目がいった。それをすぐに見抜いた協会の受付嬢に声をかけられるが、俺はそれに相槌を打ちながら目を通した。


「5等級以上の冒険者にのみ、か」

「はい。しかも、名前を伏せてありますがその依頼を受けようとする冒険者がいたら、受付嬢の所まで行って直接聞く様にと言われています」

「なら話だけでも聞いていいですか?」

「はい! 実は受ける人がいなくて困ってたんですよー」


 貧乏くじを引かされた気分である。というか、学園生活から始まって最近あまり運が良くない気がする。色々なことに巻き込まれまくりである。

 大人しく受付嬢の背中を追いかけて椅子に座った俺は、笑顔で受付嬢が差しだしてきた依頼に書かれている人の名前を見て、露骨に溜息を吐いてしまった。


「アストリウス辺境伯ですか」

「はい。あなたを推薦したリンドール・アストリウス辺境伯です」


 だから受付嬢は俺に受けてもらいたいと思ったのだ。アストリウス辺境伯からの依頼となれば、冒険者協会は断ることなどできないが、実力の足りない冒険者を送ることもできない。だが、1等級冒険者のような化け物染みた冒険者たちは基本忙しくてわざわざ冒険者協会まで足を運ぶことがない。

 俺の存在は冒険者協会にとって救いそのものだった。なにせ、どうしようもないと思っていた依頼に派遣できる唯一の存在となっている。なにせ俺が5等級冒険者であるのはアストリウス辺境伯本人の紹介なのだ。ここで俺が依頼を失敗しようとも、責任は紹介したリンドール・アストリウス本人のもの。冒険者協会にはなんの責任も発生しない。


「はぁ……わかりました。受けますよ」

「まぁ! では、協会側でカーナリアス要塞までの馬車を手配しますね」


 してやられたと思いながらも、俺は辺境伯に礼をするためにもこの依頼を受けない選択肢はない。

 こんな風に貴族が絡んでくると面倒くさいなと思うし、この問題次第では冒険者になる将来は少し保留したくなってしまう。

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