第66話 将来が不安です
「はぁ……どうするかなー」
会合とは名ばかりの、俺のことを見に来ただけの集まりから解放された。
今、俺が悩んでいることは将来的にどうやって生きて行こうかを考えていたからだ。進路相談には早い季節だが、俺も帝国魔法祭で優勝したお陰でどこの業界からも欲しがられる人材になっているだろう。
固有魔法の研究者になるのもいいが、俺としてはもっと見聞を広めたいのだ。
将来的にはローズ帝国とリードラシュ王国がいがみ合う大陸から飛び出し、世界樹なる物も見に行きたい。北の方がどうなっているのかもわからないし、そもそもこの世界が地球のように球体なのかもわからない。月と太陽らしき物が空を周回していて、夏は暑くて湿度が低く陽が長い。冬は寒くて湿度が高くて陽が短い。ヨーロッパのような気候をしているが、フリム教授が持っていた地図には赤道らしきものも存在しなかった。
この世界は謎だらけだ。誰かがわざとそうしているかのように、天文学はリードラシュ王国もローズ帝国も全く発達していない。新しい技術を開発しようとする動きも少なく、まるで誰かが世界の停滞を望んでいるかのようだ。
もし、俺の仮説が合っているとして、本当に停滞を望んでいる者がいるのだとしたら何者なのだろうか。そんな超常存在がいたら、俺の転生にも関わっているのだろうか。そして、一人の人間が必ず一つ持ち、過去の人間と未来の人間が持つものが全く被らないと言われる固有魔法の不自然さも、そいつの気紛れかなにかなのだろうか。
何も、わからない。
「あら、今帰ってきたのかしら?」
「……アリスティナ、か」
「どうしたの? らしくないわね」
ぐるぐると頭の中で疑問が回っているのを感じながら、ぼーっと学園の敷地内を歩いているとアリスティナがいた。別に俺のことを待っていたとか、そういう感じではないが、俺の様子がおかしいことには気が付いたらしい。
「ちょっと将来のことを考えてたら、ね?」
「……あなたみたいな人でも、そういうことで悩むのね」
どういう意味だろうか。俺、そんなに悩みなんてなさそうなちゃらんぽらんな人間だと思われてるのか?
「逆に、フリューゲル公爵みたいな立場があるアリスティナの方が悩まないと思うけどね」
「あなたも元子爵家嫡子ならわかるでしょう? 貴族には貴族の、平民には平民の悩みがあるの」
「まぁ……そうだけど」
アリスティナの言いたいことはわかる。そして、あなたみたいな人でも、という意味も理解できた。
アリスティナは、俺のように帝国魔法祭で優勝できるだけの力を持っている魔法師でも、将来に悩むことがあるのかと言ったのだ。しかし、俺はあまりにも異端の存在だ。帝国にとって途轍もない有望株なのだろうが、俺は帝国があまり好まない外界のことに興味を持ってしまう。
彼女の言葉を借りるのなら、帝国に仕える者には仕える者の、そして異端者には異端者にしかわからない悩みが存在するのだ。それを理解できる者が自分以外にいるかどうかは、重要なことではない。
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