第65話 認められたみたいです

「教える訳ないじゃないですか。固有魔法は魔法師の生命線ですよ」

「……そっか。そうだよね!」


 スケールさんはそれだけであっさり下がった。

 今の全く無意味なやり取りは、端的に言うと新人いびりみたいなものだろう。

 固有魔法を主体として戦う魔法師にとって固有魔法の内容を知られるのは、致命的な弱点になりかねない。相手の固有魔法を事前に知っていれば、最終的な命の関わる場面で大きな差ができてしまう。故に、多くの魔法師は自らの手の内を晒したがらない。


「うんうん……思ったよりやりそうだね、君は」


 俺も、多くの魔法師のように固有魔法のことは教えないとスケールさんに伝えたが、別に知られてもどうでもよかった。

 魔法師にとって固有魔法の内容を知られることは致命的なリスクを将来的に生みかねない。しかし、それは自らの固有魔法に振り回されている二流の魔法師までである。一流の魔法師は、自らの固有魔法を開示してなお揺らぐことはない。


 スケールさんは俺の返事から、特に知られても問題ないと思っていることを見抜いたのだ。そもそも、俺の固有魔法『模倣』は知られていても対応不可能の魔法。対応策は固有魔法を発動せずに基礎魔法だけで戦うことだが、俺はその間も他人の固有魔法をガンガンと使っている。基礎魔法だけでは対応できる攻撃ではない。


「因みに、僕の固有魔法は『転写』って言って、色々な物を写し取ることができる能力なんだ」

「……なんか、書類仕事が捗りそうな能力ですね」

「わかる!? すっごい便利なんだよね!」


 つまり、スケールさんは自らの固有魔法を戦闘で殆ど使わずに戦っている。その上で4等級の冒険者と呼ばれているということ。これで固有魔法が戦闘系のものだったら、まず間違いなく1等級冒険者だっただろう。おっかない人もいるものである。

 それはそれとして、板書を写すのに便利そうだから模倣させてくれないだろうか。


「キーニー……さんは4等級の冒険者なんですよね?」

「そうよ。もっと敬いなさい! ついでに、リリアナ様と二人きりで会えるように手配しなさい!」

「どっちも無理です」

「敬うことはできるでしょう!?」

「無理です。軽い人はちょっと……」


 俺は根に持つタイプだ。童貞臭いと言われたこと根に持ち続けてやる。童貞を捨てたらキーニーにもしっかり報告してさんを付けて呼んでやる。


「4等級と5等級ってどれくらい違うんですか?」

「殆ど変わらないよ」

「黙ってなさいスケール。あんたは身体能力化け物だからそんなこと言えんのよ」


 どうやらスケールさんは身体能力に秀でた戦闘スタイルで、4等級は5等級とはまた格が違うらしい。となると、この場で唯一1等級の冒険者であるスイッチさんの異様さが際立つ。

 目を向けた瞬間、笑顔で返してくるあの常識人っぽい人が、この中でもっとも強いと考えると、なんだか詐欺にあった気分だ。

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