第62話 特例を受けます
アストリウス辺境伯の紹介状によって、諸々の手続きをすっ飛ばして冒険者協会へ登録できるようになった俺は、協会の職員から渡された冒険者証を眺めていた。
「アストリウス辺境伯からの紹介ということで、特例として5等級の冒険者からの開始となります」
冒険者協会では、所属する冒険者の格を簡単にわかりやすくするために等級と名付けて、ランクを付けている。一番下が10等級で、一番上が1等級である。つまり、俺は半分程度のランクから始めることになるが、単純に等級の中で半分と言う訳ではない。
「5等級以上は、冒険者協会からの任務などが存在しますが……」
「他の冒険者と同じで構いません」
「わかりました」
大物からの紹介で来た人間と言うことで、受付嬢の表情も硬い。俺は苦笑しながら、これ以上の特別扱いはしなくていいと言った。
冒険者にとって6等級と5等級は天と地ほど違うと言われる。なにせ、それまで適当に依頼をこなすだけで上がるはずだった等級が、試験を合格しなければ上がらなくなる。これは、5等級以上の冒険者が正式に帝国に所属する者であるとするためである。その代わり、5等級以上の冒険者は減税措置や兵役義務の免除などの優遇措置が取られる。
帝国に所属することで、軍隊を動かすことができない国境付近のモンスター討伐や、優れた個の実力がなければ倒せない強大なモンスターの討伐などにも駆り出される。
学生という身分であり、アストリウス辺境伯の紹介を受け、リリアナ・ローゼリア皇女殿下が付き添いで来るような人間として扱われているが、本質的に小市民な俺には分不相応だ。戦闘魔法の実力に関しては最近ようやく自信がついてきたが。
「ありがとうございます。緊急連絡用の魔法水晶を渡しておきます。冒険者協会から緊急の任務が入ると、その水晶から貴方に連絡がいくようになっているので、紛失しないでください」
「わかりました」
「では、登録はこれで終了となります」
なんとか冒険者登録を終えた俺は、これで学生と冒険者二足の草鞋を履く生活になりそうだ。と言っても、学生の間は協会から送られてくる任務だけを受け、フリム教授たちと共に固有魔法の研究に尽力するつもりだ。
俺の冒険者登録が終わったのを察したのか、協会の偉い人と何か喋っていたリリアナ殿下は、さっさと会話を切り上げて近寄ってきた。
笑顔で近寄ってくる彼女を見ると、やはり帝国が誇る皇女は美人だなと思ったが、口にしたりすれば面倒なことになると思って黙った。
「終わりましたか?」
「な、なんとか」
「ではデートの続きといたしましょう。私のお得意商人の店が近くにあるんですよ」
「え!?」
冒険者登録だけでは出かける用事は終わらないらしい。
もう諦めて皇女殿下の我儘に付き合うことにしよう。それしか俺が生き残る道はない。
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