第61話 冒険者登録します
「今回は彼の付き添いで来ただけですので、気にしないでください」
「し、しかしですね……」
皇女に直接気にしないでくれと言われて、そのまま無視できる人間が帝国にいる訳がない。帝国の政治に近い冒険者協会ならなおさらだろう。
「あの、俺の用事があってきたんですけど」
「そ、そうかい! 冒険者協会へようこそ!」
仕方がないので助け舟を出してやると、助かったと言わんばかりに男はすぐに食いついてきた。
「冒険者協会に用事と言うと、やはり冒険者登録かい?」
「その予定です」
「そうかそうか。冒険者協会はいつでも優秀な人員を求めているからな。歓迎だぞ!」
皇女が私服姿の二人きりで付き添いに来る人物を警戒してはいたが、助け舟を出したおかげなのか、なんだか距離が近くなった気がする。
「あ、そういえば紹介状を頂いているんでした」
「しょ、紹介状……」
「私じゃないですよ?」
冒険者協会への紹介状を持った人間などそう多くない。なにせ、ローズ帝国の冒険者協会は国の組織の一つなのだ。そんな組織に紹介状を持ってやって来る人物など、余程の大物貴族か、とんでもない化け物のどちらかである。
助け舟を出して詰まった差が再び開いた気がした。
紹介状と聞いて視線を向けた職員の男に対して、リリアナ殿下は自分が書いたわけではないことを告げた。それが逆効果だとわかっているのだろうか。
「……」
「あの……皇帝陛下でも、他の皇子たちでもないですからね?」
「そ、そうか! もしかして帝国魔法学園の学園長とかかな?」
リリアナ殿下が帝国魔法学園に通っていることは有名である。歳が近そうな俺とリリアナ殿下が二人でやって来ていることから、学園関係なのだと推測した職員の男が、学園長ぐらいだろうと口にした。
「アストリウス辺境伯ですよ」
「……」
それに対し、すぐにリリアナ殿下が事実を述べたことで、ギルド職員のテンションは急転した。アストリウス辺境伯家は、こと冒険者協会においては皇族並みの影響力を持つ家なのだ。
「……リリアナ殿下、もう少しこう……なんとかしてくれませんか?」
「具体性に欠けることを言わないでください。後、私のことはリリアナ、もしくはリリーとでも呼んでください」
「無理です」
俺の提案は一瞬で突っぱねられ、代わりに他の無理難題を押し付けられた。
仮に、俺が言われた通りリリアナと呼び捨てにしたり、リリーと愛称で呼ぼうものなら外堀から埋められてしまう。というか埋まり過ぎて山ができる。
「考えておいてくださいね。私の騎士様?」
「あはは……助けて」
リリアナ殿下がこんな人だと知っていたら、俺は本気で皇帝陛下を説得していたかもしれない。
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