第60話 冒険者協会に行きます
フリム教授の講義を終えた後も、幾つかの講義を受けてから俺は荷物を持って学生寮に向かっていた。今日はさっさと学校から帰って、アストリウス辺境伯に貰った冒険者協会への紹介状を使おうと思っていたのだ。
荷物を置いて冒険者協会へ向かう為の馬車に乗る金を持ち、寮から出る。リースター家を追い出された時に全ての財産は持っていかれてしまったので、現在持っている金は自分で稼いだ分である。と言っても、フリム教授の個人的な研究に付き合うことでバイト代として貰っているだけだが。
「それで、冒険者協会まで馬車で行くのですね」
「あぁ……そうですね」
何故かついてきているリリアナ殿下に、苦笑いを見せながら俺は頷いた。
本当にグイグイ来る。前世の浅いオタク知識で学んだ女性像は、確かに惚れた瞬間にグイグイ来るというものだが、現実でもそうだとは全く思わなかった。
「どうですか?」
「え?」
急に離れたと思ったらその場でくるりと回ったリリアナ殿下に、首を傾げた。
「……着替えたことですか?」
「そうですよ。そうに決まってます」
確かに、何故か学園に来ていた時と服装を変えていることを疑問に思っていたが、女性とのデートでは絶対に外見を褒めるといいと、雑誌か何かに書いてあった。
「せ、清楚で似合ってますよ? 髪形も、わざわざ変えたんですね」
「それはそうですよ。一応皇女として、学校では綺麗なストレートで行こうと決めていますが、気になる殿方とデートとなれば、気合を入れて髪型を変えます」
頭を回転させてなんとか絞り出した褒め言葉は、ギリギリ及第点だったようだ。
普段は綺麗なストレートで流しているはずの髪の毛が、複雑に編み込まれているのを見て、俺はなんと返せばいいのかわからなかった。ここで、俺のためにそんな苦労して髪を変える必要ないですよ、なんて言えば絶対に怖い顔するのはわかっていたからだ。女心が理解できない俺にも、それくらいはわかる。
「では行きましょう!」
「……なんで学園前に帝国の紋章と皇族の紋章が刻まれている馬車があるのか、聞いてもいいですか?」
「これに乗っていくからですよ?」
考えるのやーめた。
物凄い豪華な馬車に乗って帝都グランゼルの中心へと向かった俺は、中心に悠然と存在するグランゼル宮城を見上げながら、冒険者協会へと入った。
「こ、これはリリアナ皇女殿下、今日はどのような御用件で?」
「ほ、本物かよ」
「やべーよ」
明らかに冒険者協会にいた人、みんな動揺しているんですが、本当に俺の目的達成できるんですかリリアナ殿下。楽しそうに笑うだけじゃなくて、俺の肩身が狭い気持ちも考えてくださいリリアナ殿下。
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