幕間 リースター子爵家
「どういうことだ!?」
「ひっ!?」
リースター子爵家では、屋敷の主であるレント・リースターが使用人を怒鳴りつけていた。レントの手元にある紙には、ローズ帝国が誇る帝国魔法学園の伝統行事である帝国魔法祭の結果が書かれていた。
リースター子爵家はリードラシュ王国にとってもかなり重要地となる場所を治めている貴族である。なにせ、辺境伯領を一つ挟んだ先にあるのはカーナリアス要塞、つまり帝国アストリウス辺境伯領なのだ。故に、リースター家には帝国へ送られた密偵から情報が持ち込まれるのだが、そこに当主レント・リースターが怒る原因があった。
「何故……何故あの無能の名前が書かれている!?」
「ひぃっ!? わ、私にもわかりませんっ!?」
将来的に脅威となるような魔法師が毎年現れる帝国魔法祭の情報は、最重要としてリースター家にも回ってくるのだが、優勝者には廃嫡したはずの無能であるライト・リースターの名前が刻まれていた。
「くそっ! メリスナの伝手を頼って帝国に渡ったのか? 15年も目をかけてやった恩も忘れ、帝国に寝返るなどリースター家の恥めが!」
目をかけてやった恩と言っているが、レントはライトの母であるメリスナが死んでから、まともに会話した回数の方が少ない。固有魔法を使えないという事実が余計にライトへの風当たりを強くし、何故お前は無能なのだと虐待にも似た教育を施していた。
口には出して言えないが、使用人は当然の結果なのだと思っていた。ライト自身も、父親であるレントに育てられた覚えなどないと言うだろう。
「お父様、問題ありませんよ。どんな汚い手を使ったか知りませんが、あの無能ライトが帝国で頭角を現すなど無理な話です」
「エルス……そうだな」
メリスナが死んでから娶った第二夫人との息子であるエルス・リースターの言葉に、レントは少し落ち着きを取り戻した。
レントはライトがどのような固有魔法を覚醒させたかなどが書かれている書類を、中身も見ずに破り捨てた。使用人がそれを唖然とした顔で見ていたが、エルスとレントだけは邪悪な笑みを浮かべていた。
「そもそも奴はどこまでいっても無能だったのだ。力を付けているはずもない……大方、ペアを組んだ相手がとてつもない力を持っていたのだろう」
「そうに違いありませんお父様。あんなお父様の『衝撃』を一発受けただけで死にかけるような奴が、そんな強くなれる訳がない」
数年間共に過ごしていたからこそ生まれる侮りを前に、先に報告書の中身を読んでいた使用人は唾をのみ込んだ。なにせ、ライトは他人の固有魔法を模倣する術を身に着けていると書かれていた。つまり、彼は今までの人生で一番見てきたであろうレントの『衝撃』すらも、模倣できてしまうのではないか。
使用人は冷や汗を流しながら、高笑いする親子を見ていることしかできなかった。
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