第57話 皇帝陛下と喋りました

「実に見事な手際であった。同じ固有魔法を持とうと、他の人間ならこうはいくまい」

「こ、光栄です」


 帝国魔法祭の優勝者は、宮廷魔法師として国に立場を約束してもらうこともできるという話は、本当のことなのだろうが正直、半信半疑だった。だが、こうして実際に皇帝陛下が姿を現して優勝者に声をかけてくると、なんというか現実味が凄い。

 皇帝陛下は特に武勇に優れた人と言う訳ではない、弱い訳でもないが、帝国軍人たちと比べれば弱くも見えるだろう。だが、人間としての存在感が圧倒的だった。この人に逆らってはいけないという、カリスマとでも言うべき雰囲気があった。


「ライト・リースターよ」

「は、はい!」


 流石に緊張する。

 今回の人生こそ子爵家に生まれてきたが、それでも途中で廃嫡されてしまった。前世は禄でもない家に生まれて、小市民のまま生きていたので、こんな目上の人と接する機会などなかった。

 目に見えて緊張している俺を見て、少し笑っている皇帝陛下に、なんとなくリリアナ殿下の姿が重なった気がした。


「そう緊張するな。そなたの生まれの話、気にすることはない」

「そう、ですか」


 溺愛していると聞いていたリリアナ殿下を下して優勝したというのも、俺が緊張する原因でもある。

 皇帝陛下が言えば誰も文句言えないだろうが、王国で生まれ育った俺として意外な話だった。帝国としての面子もなく、王国出身が優勝したということに、皇帝陛下は特に気にした様子もない。


「リリアナのこと……そなたが気にする必要はない。あれもようやく自分が認める者に出会ったというだけのこと。そなたには、あれが生まれて初めて得た渇望を、できる限り受け止めてやって欲しいが、これは父としての希望でしかない。度が過ぎるのであればしっかりと拒絶しておけ」

「が、頑張ります」


 父としてと言っているが、皇帝陛下の希望を叶えない訳にはいかない。それに、関わりたくないと思っても、これから先ずっと関わるのだろうとは思っていた。俺はもう、ただの一般生徒ではなくなったのだ。


 俺の返事に満足したのか、皇帝陛下は頷きながら離れていった。恐らく娘であるリリアナ殿下の元へと向かうのだろう。


「そういえば、一つ用事を忘れていたぞ」

「なんでしょうか?」


 皇帝陛下を見送りながら、アストリウス辺境伯が俺に紹介状のようなものを渡してきた。


「これは帝国冒険者協会の紹介状だ。一応、協会理事長を私がやっているのだが、君ほどの腕前なら冒険者協会も欲しがるだろうと思ってね」

「これは……ありがとうございます」


 冒険者と聞くと、前世の知識で荒くれ物が多いイメージがあるが、ローズ帝国での冒険者は資格を持った優秀な魔法師のことを指す。平民出身が多いが、貴族にも負けない実力を持つ者たちが数多く所属する、実力派の帝国特別部隊のようなものである。


「君をここに推薦したくてね。是非、研究に暇ができたら寄ってくれたまえ」

「はい!」


 貴族に巻き込まれるのはもう御免であるとは思っていたので、将来の職業に冒険者は考えていた。そんな繋がりがまさかこんな形で手に入るとは思わなった。


 色々な人間と繋がりを得つつ、俺の帝国魔法祭は終わった。

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