第55話 生徒会長リリアナ7

 精霊眼が無ければ見えない魔力の塊を手に、リリアナ殿下が近寄ってくる。


「ちっ!」

「無駄な足掻きは止めて、ただ私の騎士様になればいいの」

「誰が!」


 現在、リリアナ・ローゼリアの『停止』対象は『風の刃』と右足の靴だ。『停止』を解除するのは順番ではなく、リリアナ殿下が決めている以上、同時に三つ以上のものを停止させなければ、俺の右足が動くことはない。


「無駄ですよ! 私の『停止』を誘発したいのでしょうが、私の手にある魔力は貴方の扱う魔法を全て弾けるだけの威力があります! もう無駄なの!」

「そうですか?」


 俺が選択した固有魔法に対して、リリアナ殿下は必ず『停止』を発動させる確信があった。それはこれまでの言動全てを考えのことだ。


「っ!? 『停止』!」

「『停止』」


 俺が起動させようとした固有魔法を精霊眼によって先読みした彼女は、顔色を変えて『停止』を発動させた。俺が発動しようとした固有魔法は『停止』である。戦いの最中に嫌と言うほど見せられた固有魔法を、模倣できない訳がない。

 これで『停止』対象は三つ。最後の一押しは既に考えてある。


「アリスティナ、力を貸してくれ!」

「っ! またあの女の名前をっ!」


 俺には何故か全くわからないが、リリアナ殿下がアリスティナの『翼』に激しい嫌悪感を抱いているのは確認済みだ。そして、俺が『翼』を出せば有利不利にかかわらず停止させる。弾かれる『停止』対象は『風の刃』だ。


「私の力を模倣し! 私の心を踏みにじり! それでも私には一手届きませんでしたね!」

「……ミミーナ」

「『反転』!」


 信頼するペアの名前を呟けば、いつの間にか近寄ってきていたミミーナが固有魔法を発動させる。これにより『停止』が反転され、俺の足が動くようになった。『停止』を使えば必ず止め、『翼』を使えば必ず反応すると思った。そして、それによって俺の作戦が崩れ、もう打つ手はないと思い込ませた。


「なっ!?」

「悪いんですけど、魔法祭はペア戦なんですよ。自分のペアを捨て駒にした殿下は、忘れてたかもしれませんけどね」


 渾身の一撃を『交換』で避けた俺は、そのまま無防備になっている背中に固有魔法を発動する。


「『停止』」

「ぐっ!?」


 両足と『停止』そのものを停止させ、リリアナ殿下の背後に立ち、これ見よがしに『翼』を展開する。白く輝く美しい翼を揺らしながら、最後のトドメに固有魔法を起動させる。


「『雷撃の槍』『強化』『加速』『加重』受けてみますか?」

「私、絶対に諦めないです。騎士様」

「……そうですか」


 この状況でも全く笑みを崩さないリリアナ殿下に溜息が出る。


 放つと同時に、俺とミミーナの勝利が確定する。

 正直、もう二度と生徒会長とは関わりたくない。心の底から俺は思った。

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