第51話 生徒会長リリアナ3

 古代の英雄と呼ばれる者たちが使っていた固有魔法は、現代の魔法師とは比べものにならないくらいに強力であったと言われる。

 一発で海を割ったとか、巨大なドラゴンを骨も残さず消し飛ばしたとか、大陸を割ったとか、不死身の怪物を倒したとか、信じられないようなことばかり文献には書かれている。

 その中でも、全てを見通したと言われる古代の王が持っていたとされる固有魔法こそ、俺が使っている『千里眼』である。


 何故、古代の王様が持っていた固有魔法の構築式が残っているのか。

 何故、それをフリム教授が持っていたのか。

 疑問は尽きないが、俺はその複雑ながら神秘的な構築式に惹かれて、フリム教授に勧められるまま構築式を『模倣』したら、できてしまったのだ。


「非常に強力……いえ、強力なんて言葉では生温いほどの固有魔法ですね。『千里眼』の力が伝承通りであるならば、貴方はここから隣のリードラシュ王国の機密すらも見ることができる……精霊眼のように魔力の流れすらも見ることができる」


 俺はリリアナ・ローゼリアという女性のことを少し誤解していたかもしれない。

 マリス先輩が言っていた忠告がようやく頭の中に戻ってきた。一度執着すれば地獄の果てまで追いかけてくる蛇の様な人。当時聞いた時は、品行方正な生徒会長に対してとんでもないことを言うものだと思ったが、目の前にいるリリアナ・ローゼリアは、帝国の皇女がお似合いの強かで黒い知識欲を見せる女だ。


「もっと見せてください。貴方の強さを」

「……そうやってると、足元掬われますよ。それすらも望んでいるんでしょうけど、ね」

「『千里眼』ですか? 人に心を読まれるのは不愉快なんですよ?」

「よく言いますね」


 悪いが『千里眼』に読心能力など存在しない。

 普段とは全く違う、不気味な笑みを浮かべるリリアナ殿下に対して、俺は既に攻撃を展開していた。『風の刃』を身体に纏って、幾つかを放つ。


「私、本当に貴方に興味があるんですよ。嘘じゃないですよ?」

「失礼ですけど、あんまり嬉しくないですね!」


 手加減無しの『風の刃』が迫る中、リリアナ殿下は全く動かずに笑っていた。ただ、俺の『千里眼』には既に魔力の流れが見えていた。魔力が繋がると同時に、固有魔法が発動して『風の刃』が掻き消える。


 予想通り『風の刃』が使えなくなったことを理解した俺は、続けざまに『雷撃の槍』を放ちながら『燃焼』『強化』『千里眼』『未来視』の4つを同時に発動する。

 笑っているリリアナ殿下が手をかざすと同時に『雷撃の槍』が消え、視界が一気に狭まったが、彼女は魔力の糸を『燃焼』させた爆発を動いて避けた。


「はっ!」

「『未来視』ですか」


 リリアナ殿下の動きを予知して放った『燃焼』が掻き消えると同時に、俺は『風の刃』が返ってきたことを理解する。

 まだ完全に謎を解明できた訳ではないが、リリアナ・ローゼリアの持つ固有魔法の正体を理解した。後は詰めていくだけだ。

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