第50話 生徒会長リリアナ2

「自分の部下である庶務を見捨てておいて、俺の観察ですか?」

「いえ、貴方の観察はもう終わっていますから」


 俺の観察は終わっている。挑発のような言葉だが、恐らく本当のことなのだろう。


 帝国魔法祭に参加すると決めた時に、俺は何人か有力な生徒をピックアップして事前に調査していた。

 ザリード・クスヌバルクは固有魔法が『燃焼』であることが判明しており、それの対策を立てた。

 アガルマ・リュドマクエルは固有魔法が謎だったが、武器を扱わない近接主体の戦い方であることを知っていたので、搦め手で倒すことを決めていた。

 ただ、リリアナ・ローゼリアという人物に関してはなんのヒントも得られなかった。昨年に優勝した時は、最終的にマリス・カエキスと戦って圧勝。勝利方法は突然『縮小』が使えなくなったマリス先輩に、優雅に華麗に魔力の塊を放って気絶させただけ。まさしく学園最強の名を冠するに相応しい力であるが、固有魔法が一切謎に包まれている。


 学生の間では、固有魔法を消失させる固有魔法であるとしか考察されていない。マリス先輩との戦いを見る限りそれしか思いつかなかったのだろうが、俺はリリアナ・ローゼリアの固有魔法が『消失』ではないことを知っている。それは実際に『縮小』を使える者が戦った映像を見ることでしか、わからない。


「ライカーとの戦いで、貴方は固有魔法を5つ使いましたね」

「よく、見てますね」

「えぇ……生まれつき良く見えてしまうのです」


 リリアナ・ローゼリアの最も恐ろしい所は謎の固有魔法ではなく、この圧倒的な精霊眼である。通常の精霊眼は魔力の流れを見る程度だが、精霊に愛されて生まれてきたと言われるリリアナ・ローゼリアは、相手の魔力がどのようにして変化しているのかを見抜く。つまり、見ただけで相手がどんな固有魔法を使っているかがわかるのだ。それがどれだけ強いかは、説明する必要もない。


「ミエーナ・ウィーネの『加重』、アガルマ・リュドマクエルの『強化』、ルドラ・オックスの『風の刃』に加えて、誰のかは知りませんがよくそんな固有魔法を見つけてきましたね? 『未来視』と『千里眼』ですか?」


 思わず顔を顰めてしまった。精霊眼によって使っていた固有魔法を見破られるというのは、かなり厄介だ。誰にも気が付かれなかった『未来視』と『千里眼』を簡単に見破られた。


「うふふ……フリム教授から頂いたのですね?」

「そうですね」


 『未来視』の固有魔法は現在も宮廷魔法師として活躍している者の魔法だと教授も言っていたが、もう片方である『千里眼』はそんな次元のものではない。


「固有魔法『千里眼』なんて……全てを見通したと言われる、古代の英雄が持っていた固有魔法すらも『模倣』するなんて、とてつもないですね?」


 他人の口からネタ晴らしをされる不愉快さを、この世界でも痛感するとは思わなかった。

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