第48話 外野2

「ほう……娘の固有魔法を上手く使ったものだ」


 私は観客席から聞こえてきた貴族の声に振り向いた。そこに座っているのは、現アストリウス辺境伯であるリンドール・アストリウスだった。皇帝陛下から武力に関して最も信を置かれている貴族であり、現在もロア5世皇帝陛下の横で帝国魔法祭を観戦していた。

 彼の我が娘という発言から、対象がライトであることにはすぐに気が付いたが、司会という役割に立っている以上、あまり贔屓的な見方はできない。それでも、アガルマを打倒した手際は見事なものだったと思う。


「そなたの娘、固有魔法は『反転』だったか。非常に強力なものよ」

「そうですね。普段から恐怖に呑まれやすい性格でしたが、戦場にでればやはり我が娘だったということでしょう」

「うむ……そなたの娘にも期待できそうだ」


 現在、ローズ帝国を治めるロア5世はあまり野心的な性格はしていないと言われているが、実子である生徒会長を見ているとそうだとは到底思えない。あの蛇の様に狡猾でありながら、ドラゴンのように荒々しい娘の父親が、平和主義者など信じられるか。

 口に出せば不敬罪で首を飛ばされそうなことを考えながら、宮廷魔法師が固有魔法『投影』によって空中に出している映像を見る。

 ライトの戦いは実に見事なものだったが、ライトとアガルマが戦っている間に、他のペアは全て脱落している。


「学園最強、伊達じゃないのが問題だな」


 彼がアガルマとの戦いを繰り広げている間に、他のペアを生徒会長にしてこの国の皇女であるリリアナ・ローゼリアが蹂躙してしまったのだ。

 彼女のペアは生徒会庶務をしている私の後輩だが、彼は可愛くないので嫌いだ。何故会長があいつと組んでいるのか疑問だが、魔法祭はペア参加が絶対なのだから仕方がない。魔法祭開催前に、ペアとして参加しろと私が言われたのを断ったせいではない。断じて違うと思う。


「気を付けろライト。会長は既にお前へ執着している……どんな手を使ってくるかわからんぞ」


 アガルマ・リュドマクエルは正々堂々とした戦いを好むタイプだ。ザリード・クスヌバルクも、戦闘の中で一対一の形を作りたがるタイプで、そういった意味では二人ともライト・リースターという存在と相性が悪かったと言える。しかし、リリアナ・ローゼリアはどこまでも狡猾に、そしてどこまでも勝ちに執着する女である。

 正しく、ローズ帝国の皇女といった女であるが故に彼女は手段を選ばない。だからこそ、あの人はどこまでも強い。

 私は、過去の帝国魔法祭で一方的に敗北した過去を思い出して、顔を顰めた。

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