第44話 生徒会副会長アガルマ2

 リュドマクエル男爵家は、女傑の家だと聞いたことがある。代々女性が当主を務め、帝国に対して絶対に忠誠を誓っている武家貴族なのだと。男爵家というあまり高くない爵位を持っているが、その実力は圧倒的で、現当主であるアガルマ・リュドマクエルはまさしく鬼神の如き力を持っているのだとか。

 つまり、現在目の前で俺が放った『風の刃』を、身体強化の魔法だけで弾いた女性は、学園の生徒にしてリュドマクエル男爵家の当主なのだ。


「流石に、威圧感が違うな」


 ザリードは決して弱くない生徒だった。生徒会に選ばれているだけあり、固有魔法も強力無比で、使い方も上手かった。俺は騙し討ちみたいな形で倒してしまったが、ザリードはやはりこの学園でも上位に入る実力の持ち主だった。だが、目の前の女傑に比べれば可愛いものだ。


「おいおいおい、マジかよあのゴリラ」

「ご、ごりらがなにかはわかりませんが、マジです」


 女傑アガルマが使用している身体強化魔法は、本来それほどの出力で放てるものではない。精々、1メートル上に跳躍できる人間が1メートル50センチ飛べるようになる程度なのだが、どういう理屈なのかアガルマ・リュドマクエルは脚力に身体強化を乗せているだけで、『翼』を使って飛んでいる俺たちの高度まで到達していた。


「逃がさんっ!」

「おっと」


 ぶん、という空気を切り裂く音が横を通り過ぎるのを聞きながら、俺は『翼』を制御して空を急旋回した。

 俺に避けられて横を通り過ぎて行ったアガルマを見送りながら、様子を観察する。彼女が俺の『模倣』に対する警戒をどこまでしているのかを見なければならない。


「……あれ、ザリード先輩との戦いをどっかで見てたのか」


 得物を釣るように『翼』をわざとらしく解除して大通りに降り立ったが、特に警戒心が変わらない。試しに『風の刃』を放ってみても、最初と同じように素手で弾かれて、飛んでいった刃が建物を切り刻むだけだ。


「ミミーナ、ちょっと離れててくれ」


 俺の背後に隠れていたミミーナは、指示に従って大通りから路地裏へと向かって走り出す。そんなことを気にした様子もなく、地面を砕きながら加速してアガルマが突進してくる。

 一応ブラフで『翼』を展開するが、そのまま突っ込んできたので『翼』を揺らめかせながら『風の刃』で牽制した。平然とした顔で風を叩き割る相手に苦笑いが浮かぶが、とりあえず空へ逃げた。


「やはり、お前の『模倣』は同時に複数の固有魔法を再現できる訳だ」

「確信はなかったんですか? 大した度胸ですね」

「いや、お前の放つ固有魔法程度なら防げる自信があるだけだ」

「マジ頭までゴリラかよ」


 森の賢者とまで言われるほど知的で大人しいゴリラに対して失礼かもしれない。

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