第42話 外野1

「ライト・リースターが、生徒会の一角を崩したぞ……」

「信じられねぇ」


 帝国魔法学園にとって、生徒会というのは実力者が集まる学内最強の集団である。今回は面倒だと思って参加していない私も、参加すればそれなりの成績を出せる自信はある。


「とは言え、ここまでザリードの奴を翻弄するとはな」


 私、マリス・カエキスにとってライト・リースターは可愛い後輩であり、ザリード・クスヌバルクは生意気な後輩である。

 正直、生徒会仲間でありながらライトを応援した罪悪感はあるが、終始掌で踊らされるザリードを見ると、なんとなく日頃の鬱憤が晴れる感覚があった。別に悪い奴ではないのだが、戦闘以外はあまりできない残念な頭をしているせいで、書記の仕事が会計の私にまで回ってくることがあるのだ。自業自得とも言う。


「にしても、ザリードを倒したってことは、ザリードの推理は間違ってたってことか?」

「そもそも『模倣』なんて言って、他人の固有魔法使ってる時点で謎だらけなんだから俺が知るかよ」


 外野の観客席は、先ほどまでのライト対ザリードで、最後にライトが仕掛けた攻撃で盛り上がっている。結果だけを見ればザリードが敗北したが、一度でも『模倣』を目で見ている私も、驚いていた。なにせ、ザリードの推測の中にあった、一度に発動できる固有魔法が一つという『模倣』のルールを私も信じていたからだ。


 学内最強の集団であるはずの生徒会の一角が、新入生によって崩れた。前代未聞の大事件ではあるが、貴族の当主たちはこの瞬間から皆、ライトという存在に目を付けているだろう。

 優勝すれば宮廷魔法師の資格は得られるが、上位の成績を残せば貴族家から声が直接かかることがある。それを狙って帝国魔法祭に出ている者もそれなりにいる。強力な固有魔法であれば、下手をすると娘の婚約者として家に招くこともあるという。

 貴族はいつの時代も血統主義だ。血統に強力な固有魔法使いの血を混ぜれば、将来的に強力な固有魔法使いが生まれると信じている。血統で固有魔法の性質が受け継がれることはないと、帝国が誇る固有魔法研究者の第一人者であるフリム・フリングベルが否定していると言うのに。


「フリム教授と言えば……そうか、ライトの奴。フリム教授から過去の固有魔法を……」


 何故、ライトが『雷撃の槍』を使っているのか疑問に思っていたが、彼はフリム教授の伝手で魔法水晶かなにかの映像で、私の先輩でもある彼の固有魔法を見たのだろう。となると、彼の扱う『模倣』はとても厄介な魔法になる。なにせ『雷撃の槍』本来の使い手は、既に行方不明なのだから。

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